【TSMC決算】売上・純利益とも過去最高、ガイダンス上限超え——通期の伸びを約44%に引き上げ、2nmは8%に拡大

企業決算

半導体受託製造(ファウンドリ)の世界最大手TSMCが、日本時間2026年10月15日に2026年第3四半期(7〜9月期)の決算を発表しました。今回は決算発表文・財務諸表・投資家向けプレゼンテーション・経営報告書の4つの一次資料と、決算説明会での経営陣の発言をもとに、数字とコメントを整理します。

前回(第2四半期)の決算記事はこちらです。

30秒で読む結論

TSMCの第3四半期は、売上高467.2億ドル(前年比+41.2%)で会社ガイダンスの上限を上回り、純利益7,630.6億元(同+68.7%)とともに過去最高でした。粗利率66.4%は2nm立ち上げの負担で前期から1.3pt下がったものの、ガイダンスの範囲内です。経営陣は2026年通期の売上の伸びを約44%に引き上げ、第4四半期はさらに1割以上の増収を見込みます。


① 売上・純利益とも市場予想を上回り過去最高
② 2nmの比率が3%→8%に急拡大。粗利率は一時的に低下
③ 設備投資は今年600〜640億ドルを維持し、今後3年は過去3年を大幅に上回る見込み

① TSMCとはどんな会社か

TSMC(台湾証券取引所:2330/NYSE:TSM)は、台湾・新竹に本社を置く、世界最大の半導体受託製造(ファウンドリ)企業です。1987年に創業し、自社ブランドのチップを持たずに、NVIDIA・Appleなどが設計したチップを製造しています。2025年は534社向けに12,682製品を製造しました。

前日に取り上げたASMLが露光装置を供給する「上流」だとすると、TSMCはその装置を使ってAI半導体を実際に作る立場です。一方で、生産の多くが台湾に集中していることによる地政学リスクや、米国・日本など海外工場の拡大に伴うコスト増は、毎回の決算で注目されます。

② 主要財務ハイライト

指標Q3 2026Q2 2026Q3 2025前年比
売上高(ドル)467.2億$402.0億$331.0億$+41.2%
売上高(元)1兆4,942.4億元1兆2,703.8億元9,899.2億元+50.9%
粗利率66.4%67.7%59.5%+6.9pt
営業利益率58.7%60.3%50.6%+8.1pt
純利益7,630.6億元7,065.6億元4,523.0億元+68.7%
純利益率51.1%55.6%45.7%+5.4pt
EPS(希薄化後)29.43元27.25元17.44元+68.7%

元=台湾ドルです。ドル建てと元建てで伸び率が違うのは、元安(1ドル29.91元→31.98元)のためです。

会社ガイダンスとの比較

項目ガイダンス(Q2決算時)実績評価
売上高446〜458億$467.2億$上限を約9億$上回る
粗利率65〜67%66.4%範囲内
営業利益率56〜58%58.7%上限を上回る

市場予想との比較

LSEGの市場予想は、売上高1兆4,600億元、純利益7,408億元(前年比+64%)でした。実績は売上高で約2%、純利益で約3%上回りました。

③ 売上の内訳

技術別:2nmが3%→8%に

技術別のウェハー売上構成比

Q3 2025
23%
37%
14%
26%
Q2 2026
30%
33%
11%
23%
Q3 2026
8%
33%
28%
10%
21%

2nm 3nm 5nm 7nm 16nm以上

出所:TSMC経営報告書をもとに作成。Q2 2026の2nmは3%

技術Q3 2025Q2 2026Q3 2026
2nm0%3%8%
3nm23%30%33%
5nm37%33%28%
7nm14%11%10%
7nm以下の合計74%77%79%

比率はウェハー売上に占める割合です。2nmと3nmが伸び、5nmからの世代交代が進んでいます。

プラットフォーム別:HPCが68%に

プラットフォーム別の売上(前期比)

HPC
+22%
スマホ
+10%
IoT
+5%
車載
+23%
DCE
-12%
その他
-10%

出所:TSMC経営報告書をもとに作成

用途比率前期比
HPC(AI・データセンター向けなど)68%+22%
スマートフォン21%+10%
IoT4%+5%
車載4%+23%
DCE(デジタル家電)1%-12%
その他2%-10%

HPCの比率は、前年同期の57%から11pt拡大しました。

地域別:北米が79%

地域(顧客の本社所在地)Q3 2025Q2 2026Q3 2026
北米76%78%79%
アジア太平洋9%8%10%
中国8%6%5%
日本4%4%3%
EMEA(欧州・中東・アフリカ)3%4%3%

中国の比率は下がり続けています。前日のASML記事では中国向けが23%に急増していましたが、ASMLは「出荷先」、TSMCは「顧客の本社所在地」で集計しているため、単純には比較できません。

④ 出荷・在庫動向

  • ウェハー出荷は447.6万枚(12インチ換算)で、前期比+3.2%、前年比+9.6%でした。
  • 売上の伸び(前期比+17.6%)が、出荷枚数の伸びを大きく上回っています。売上高(ウェハー以外の売上も含む)を出荷枚数で割った概算は約33.4万元で、前期(約29.3万元)から約14%、前年同期(約24.2万元)から約38%増えました。2nm・3nmなど単価の高い先端品への構成シフトが主因と考えられます。
  • 在庫回転日数は82日で、前期から5日短縮しました。会社は出荷の増加を理由に挙げています。
  • 売掛金回転日数は28日で、前期から1日短縮しました。

⑤ 特殊要因:前期比の見かけに注意

  • 第2四半期の純利益には、VIS(ヴァンガード・インターナショナル・セミコンダクター)株の売却益・評価益632億元が含まれていました。第3四半期はこれがなく、純利益は前期比+8.0%にとどまりましたが、営業利益ベースでは+14.3%の増益です。
  • 第2四半期には、2024年4月3日の地震の保険金が「その他営業収益」に計上されていました。
  • 第3四半期の投資キャッシュフローには、米財務省の投資税額控除による受け取り(「その他投資収入」1,987億元の主な内訳)が入っています。

⑥ 四半期推移

売上高(ドル建て)と利益率の推移

331.0
337.3
359.0
402.0
467.2
Q3 25
粗 59.5%
営 50.6%
Q4 25
粗 62.3%
営 54.0%
Q1 26
粗 66.2%
営 58.1%
Q2 26
粗 67.7%
営 60.3%
Q3 26
粗 66.4%
営 58.7%

棒は売上高(億ドル)。粗=粗利率、営=営業利益率。出所:TSMC決算資料をもとに作成

四半期売上高(ドル)売上高(元)粗利率営業利益率純利益
Q3 2025331.0億$9,899.2億元59.5%50.6%4,523.0億元
Q4 2025337.3億$1兆460.9億元62.3%54.0%5,057.4億元
Q1 2026359.0億$1兆1,341.0億元66.2%58.1%5,724.8億元
Q2 2026402.0億$1兆2,703.8億元67.7%60.3%7,065.6億元
Q3 2026467.2億$1兆4,942.4億元66.4%58.7%7,630.6億元

売上高は5四半期連続で増加しました。粗利率は第2四半期の67.7%がピークで、第3四半期は、会社の説明によると2nm(N2)の初期立ち上げによる希薄化で低下しました。

⑦ キャッシュフロー・バランスシート

項目Q2 2026Q3 2026
営業キャッシュフロー7,833.6億元9,197.7億元
設備投資4,960.0億元
(157.0億$)
4,432.1億元
(138.4億$)
フリーキャッシュフロー2,873.6億元4,765.6億元
現金+市場性有価証券3兆5,180.1億元4兆169.8億元
ネットキャッシュ2兆4,863.3億元2兆9,854.0億元
自己資本比率69.1%70.1%
  • FCFは前期比+1,892億元で、直近5四半期で最大です。営業キャッシュフローの増加と設備投資の減少によるものです。
  • 設備投資の1〜9月累計は406.4億ドルです。通期予算600〜640億ドルを達成するには、第4四半期に約194〜234億ドルが必要で、今年の第2四半期(157.0億ドル)を大きく上回る規模になります。

四半期の設備投資と第4四半期の必要額

111.0
157.0
138.4
約194〜234
Q1 26
Q2 26
Q3 26
Q4 26
(必要額)

単位:億ドル。Q4は通期予算600〜640億ドルから1〜9月の実績を差し引いた計算値(塗り=下限、点線=上限)。出所:TSMC経営報告書をもとに作成

前回の注視点の答え合わせ

前回の注視点第3四半期の結果
在庫回転日数の悪化(87日)82日に改善(出荷増のため)
設備投資の急増でFCFが減少設備投資は減少し、FCFは直近5四半期で最大に
実効税率の上昇(18.1%)16.2%に低下
想定為替(1ドル32元)と実勢の乖離実績31.98元でほぼ想定どおり
純利益にVIS株売却益が寄与第3四半期は反動で、純利益の前期比が+8.0%にとどまる

⑧ 株主還元

  • 2026年第2四半期分の配当は1株7.00元です(権利落ち12月10日、支払い2027年1月7日)。
  • 第3四半期には、2025年第4四半期分の配当1,555.9億元を支払いました。
  • 黄仁昭CFOは、年ベース・四半期ベースとも1株配当を「持続的かつ着実に増やす」方針を改めて示しました。

⑨ ガイダンス

項目Q4 20262026年通期(今回)2026年通期(Q2時点)
売上高523〜543億$伸び率 約44%40%強
粗利率65〜67%——
営業利益率56.5〜58.5%——
設備投資—600〜640億$(据え置き)600〜640億$
想定為替1ドル31.8元——
  • 第4四半期の売上高は、前期比+12〜16%、前年同期(337.3億$)比+55〜61%(中央値で約+58%)です。
  • 1〜9月の実績と合わせると、2026年通期の売上高は概算で約1,751〜1,771億ドルになります。
  • 第4四半期の粗利率は中央値66%で、前期から約0.4pt低下する見込みです。黄CFOは、2nmの急速な立ち上げと海外工場による希薄化を理由に挙げ、生産性の向上などで一部を打ち消すと説明しました。

⑩ 注目トピック(決算説明会より)

需要:需給の差は「依然かなり大きい」

  • 魏哲家CEOは、需要は非常に強く、需要と供給の差は依然かなり大きいと説明しました。
  • AI向けアクセラレーター売上の2024〜2029年の年平均成長率見通し(50%台半ば〜後半)は、上回る可能性があると述べました。

設備投資:今後3年は大幅増

  • 2026〜2028年の設備投資は、過去3年を大幅に上回る見込みです。2027年以降の具体額は示しませんでした。
  • 設備・材料・人件費の値上がりは認めつつ、投資の規模は長期の需要で決めると説明しました。長期的には、売上の伸びが設備投資の伸びを上回る方向だとしています。

粗利率:海外工場の負担が拡大へ

  • 海外工場による粗利率の希薄化は現在約2ptで、今後数年の後半には3〜4ptに広がる見通しです。
  • 魏CEOは、利益率に「上限はない」としつつ、急に大きく上がることはないとも述べました。

2nm・A14の計画

項目計画
2nm系の生産能力2027年に2倍以上
A142027年にリスク生産、2028年に量産。顧客の関心は2nm以上
米アリゾナ第2工場2027年第3四半期に量産開始
日本の第2工場2028年
High NA EUV2030年に使用開始。ASMLとの12インチマスクは2031年まで

魏CEOは、A14は「2nmより大きなノードになる」との見方を示しました。

先端パッケージ(CoWoS)

  • 露光1回分の面積(レチクル)の5倍サイズのチップをすでに量産中で、9倍・14倍を開発中です。
  • コストを下げるためのパネル型(CoPoS)も開発中ですが、顧客の第一選択は引き続きCoWoSとしています。
  • 具体的な生産能力の数字は示しませんでした。

値上げ:2027年の具体策は示さず

  • 魏CEOは、価格は戦略的に決めるもので、市場・地域・技術によって異なると説明しました。米国と台湾では価格が違うとも述べています。
  • 消費者向けなど価格に敏感な市場に圧力があるため、2027年の計画は慎重に立てているとしました。

その他の発表

  • ASMLと、High NA EUV向けの大型フォトマスクへの移行を共同で進めるイニシアチブを発表しました(9月8日)。
  • ソニーセミコンダクタソリューションズと、次世代イメージセンサーの合弁会社設立で合意しました(8月11日)。

⑪ 注視すべきポイント

決算資料と説明会から読み取れる留意点

① 2nm立ち上げと海外工場(約2pt→3〜4pt)による粗利率の希薄化がどこまで進むか
② 第4四半期の設備投資の急増(約194〜234億ドル)で、FCFが再び縮む可能性
③ 北米79%・HPC68%と、特定の顧客・用途への集中が一段と進んでいます
④ 元安が利益を押し上げており、為替が逆回転した場合の影響
⑤ 2027年の値上げは具体策が示されず、価格に敏感な市場への圧力も経営陣が認めています

この記事のまとめ

第3四半期は、売上・純利益が過去最高を更新し、市場予想と会社ガイダンスをともに上回りました。経営陣は通期の伸びを約44%に引き上げ、需給の差は依然大きいとしています。一方で、2nmの立ち上げと海外工場の拡大が粗利率を押し下げる局面に入っており、第4四半期の大型投資とあわせて、利益率とキャッシュフローの推移が次の焦点です。

データについて:本記事の数値は、TSMCが2026年10月15日に公表した資料と決算説明会の発言に基づきます。Q4 2025の数値は2026年1月15日の決算発表によります。1枚あたり売上高は、売上高(ウェハー以外の売上も含む)を出荷枚数で割った概算です。図は公表資料の数値をもとに作成しました。株価の反応は、台湾市場の取引終了後の発表で、米国ADRの取引も執筆時点で始まっていないため掲載していません。

主な出典

✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年
ファンダメンタルを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。たまにチャート分析もします。ナンピンは得意です。
X(旧Twitter):@pablo29god

免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。また、特定の企業・政策・団体等への評価や意見を代表するものではありません。本記事は公開されている一次資料・報道をもとに事実関係を整理したものであり、独自の取材に基づくものではありません。市場価格は常に変動しており、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。最新の情報については各出典元をご確認ください。執筆者は金融商品取引業者ではなく、投資助言業の登録を受けていません。投資判断はご自身の責任で行ってください。FX・先物・CFD取引はレバレッジにより、預けた元本を超える損失が生じる可能性があります。

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