半導体露光装置の世界最大手ASMLが、日本時間2026年10月14日に2026年第3四半期(7〜9月期)の決算を発表しました。今回はプレスリリース・財務諸表・投資家向けプレゼンテーション・経営陣インタビューの4つの一次資料をもとに、数字と経営陣のコメントを整理します。
前回(第2四半期)の決算記事はこちらです。
ASMLの第3四半期は、売上高116.6億ユーロ(前年比+55%)、純利益49.6億ユーロ(同+133%)といずれも過去最高でした。粗利率57.5%は会社ガイダンスの上限を上回りました。経営陣は「2027年・2028年とも供給が需要に追いつかない」と明言し、生産能力のさらなる増強を検討しています。
① 売上・利益とも過去最高。粗利率は5四半期連続で改善
② 中国向けが装置売上の23%に急増(第2四半期は14%)。ただし通期では約20%と想定の範囲内
③ 主要顧客との値上げ交渉が完了。効果は2027〜2028年に本格化
① ASMLとはどんな会社か
ASML Holding NV(ユーロネクスト・アムステルダム/NASDAQ:ASML)は、オランダ・フェルトホーフェンに本社を置く、半導体露光装置の世界最大手です。露光装置は、半導体チップの回路パターンをシリコンウェハーに焼き付ける装置で、TSMC・Samsung・Intelなど世界の主要な半導体メーカーに納入しています。
最大の特徴は、最先端チップの製造に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置を、世界で同社しか作れないことです。AI半導体ブームの主役はNVIDIAなどですが、ASMLはその「さらに上流」で装置を供給する立場にあり、AI向けの設備投資の恩恵を直接受けます。一方で、米国主導の対中輸出規制の影響を受けやすく、中国向けの比率は毎回の決算で注目されます。従業員数は45,500人超(フルタイム換算)です。
② 主要財務ハイライト
| 指標 | Q3 2026 | Q2 2026 | Q3 2025 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 116.6億€ | 93.3億€ | 75.2億€ | +55.2% |
| 粗利率 | 57.5% | 54.0% | 51.6% | +5.9pt |
| 営業利益 | 51.7億€ | 34.6億€ | 24.7億€ | +109.6% |
| 営業利益率 | 44.4% | 37.1% | 32.8% | +11.6pt |
| 純利益 | 49.6億€ | 29.2億€ | 21.2億€ | +133.4% |
| EPS(基本) | €12.95 | €7.59 | €5.49 | +135.9% |
会社ガイダンスとの比較
| 項目 | ガイダンス(Q2決算時) | 実績 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 110〜120億€ | 116.6億€ | レンジの上半分 |
| 粗利率 | 55〜57% | 57.5% | 上限を上回る |
| 保守・アップグレード売上 | — | 32.9億€ | ガイダンスを約4億€上回る(CFO発言) |
ロジャー・ダッセンCFOは、売上と粗利率がガイダンスを上回った主な理由として、顧客が既存装置のアップグレードを強く求めたことを挙げています。
③ 売上の内訳
装置売上と保守・アップグレード売上
ASMLの売上は、新しい装置の販売(装置売上)と、既存装置の保守・アップグレード・部品などのサービス(Installed Base Management、以下IBM)の2つで構成されます。
| 区分 | Q3 2026 | Q3 2025 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 装置売上 | 83.7億€ | 55.5億€ | +50.8% |
| 保守・アップグレード(IBM) | 32.9億€ | 19.6億€ | +67.6% |
技術別:DUV液浸が急伸
| 機種 | Q2 比率 | Q3 比率 | Q2 台数 | Q3 台数 |
|---|---|---|---|---|
| EUV | 57% | 49% | 16 | 17 |
| ArFi(液浸) | 29% | 39% | 23 | 40 |
| ArF Dry | 4% | 3% | 8 | 10 |
| KrF | 6% | 5% | 35 | 35 |
| i-line | 1% | 1% | 9 | 19 |
| 計測・検査 | 3% | 3% | — | — |
比率は装置売上に占める割合です。露光装置の販売台数は新品113台・中古8台の合計121台(計測・検査装置を除く)でした。比率に装置売上を掛けた概算では、EUVは約37億€から約41億€(+1割)、ArFi(液浸)は約19億€から約33億€(+7割)に増えています。
地域別:中国向けがほぼ倍増
| 地域(出荷先) | Q2 2026 | Q3 2026 | 金額の概算 |
|---|---|---|---|
| 台湾 | 30% | 32% | 約19.7億€ → 約26.8億€ |
| 韓国 | 43% | 31% | 約28.2億€ → 約25.9億€ |
| 中国 | 14% | 23% | 約9.2億€ → 約19.3億€ |
| 米国 | 9% | 13% | 約5.9億€ → 約10.9億€ |
| 日本 | 4% | — | — |
| その他アジア | — | 1% | — |
比率は装置売上(Q2:65.6億€、Q3:83.7億€)に占める割合で、金額は比率を掛けた概算です。中国向けは金額でほぼ倍増しました。EUVは中国へ輸出できないため、中国比率の上昇とArFi(液浸)の急伸は連動している可能性があります。ただし、地域と機種を掛け合わせた内訳は開示されていません。韓国は比率こそ下がりましたが、金額はほぼ横ばいです。
用途別:メモリの存在感
第3四半期の装置売上は、ロジック54%・メモリ46%でした(第2四半期は51%・49%)。年間の推移は次のとおりです。
| 区分(総売上) | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年1〜9月 |
|---|---|---|---|---|
| ロジック | 160億€ | 132億€ | 161億€ | 110億€ |
| メモリ | 60億€ | 86億€ | 84億€ | 103億€ |
| 保守・アップグレード | 56億€ | 65億€ | 82億€ | 85億€ |
| 合計 | 276億€ | 283億€ | 327億€ | 298億€ |
メモリと保守・アップグレードは、9か月で既に2025年の通期実績を上回っています。
④ 特殊要因:Mistral AI株の評価益
第3四半期の純利益には、「株式投資の評価益」5.1億€が含まれています。ダッセンCFOによると、これはASMLが取得したMistral AI株(第1トランシェ)の再評価による利益です。
この評価益を除いた純利益は約44〜45億€(概算)で、それでも前四半期比で+5割前後の増益です。見出しの純利益49.6億€は、この分を割り引いて見る必要があります。
⑤ 四半期推移
| 四半期 | 売上高 | 粗利率 | 営業利益率 | 純利益 | 露光装置台数 |
|---|---|---|---|---|---|
| Q3 2025 | 75.2億€ | 51.6% | 32.8% | 21.2億€ | 72台 |
| Q4 2025 | 97.2億€ | 52.2% | 35.3% | 28.4億€ | 102台 |
| Q1 2026 | 87.7億€ | 53.0% | 36.0% | 27.6億€ | 79台 |
| Q2 2026 | 93.3億€ | 54.0% | 37.1% | 29.2億€ | 91台 |
| Q3 2026 | 116.6億€ | 57.5% | 44.4% | 49.6億€ | 121台 |
粗利率は5四半期連続で改善し、第3四半期で一段跳ねました。ダッセンCFOは要因として、数量の増加で固定費を吸収できたこと、EUVと液浸DUVの構成比、アップグレード事業の3つを挙げています。
⑥ キャッシュフロー・バランスシート
| 項目 | Q2 2026 | Q3 2026 |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 17.0億€ | 118.0億€ |
| 設備投資など | 3.9億€ | 4.5億€ |
| フリーキャッシュフロー | 13.2億€ | 113.5億€ |
| 現金+短期投資 | 75.8億€ | 127.4億€ |
| 契約負債(固定負債・前受金) | 35.7億€ | 93.0億€ |
| 売掛金など | 78.1億€ | 99.3億€ |
| 株主資本比率 | 43.5% | 37.4% |
- 前受金が1四半期で約57億€増加しました。ASMLは2026年から四半期ごとの受注額を開示していないため、受注の強さを示す数少ない手がかりです。
- 前回の記事で注視点に挙げた「上半期の営業キャッシュフローのマイナス」は、第3四半期で大きく解消しました。
- 株主資本比率の低下は、前受金で負債(=総資産)が膨らんだことと、大型の自社株買いによるもので、業績の悪化によるものではありません。
- 借入金を10億€返済し、長期債務は年初の27.1億€から19.6億€に減りました。
⑦ 株主還元
- 第3四半期の自社株買いは約280万株・約41億€で、第2四半期(約11億€)の約4倍です。平均取得単価は約1,460€の計算になります。
- 2026年度の第2回中間配当は1株あたり1.88€で、2026年11月4日に支払われます。
⑧ ガイダンス
| 項目 | Q4 2026 | 2026年通期(今回) | 2026年通期(Q2時点) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 142〜152億€ | 440〜450億€ | 430〜450億€ |
| うち保守・アップグレード | 約37億€ | — | — |
| 粗利率 | 約57% | 約56% | 54〜56% |
| 研究開発費/販管費 | 約12億€/約4億€ | — | — |
| 実効税率 | — | 約17% | — |
- 第4四半期の売上高は、前年同期(97.2億€)比で+46〜56%です。保守・アップグレードを除いた装置売上は、約105〜115億€の計算になります。
- 通期の粗利率は、年初のガイダンス51〜53%から大きく引き上げられました。
ダッセンCFOは、2026年通期の事業別の見通しを次のように説明しています。
| 区分 | 2025年比 |
|---|---|
| 全体 | +36% |
| EUV | +45%超 |
| 非EUV(DUVなど) | 約+20% |
| 保守・アップグレード | 約+50% |
| 中国比率(総売上ベース) | 約20% |
中国は第3四半期だけを見ると23%に跳ねましたが、通期では約20%に収まる見通しです。
⑨ 注目トピック
需要と生産能力:2028年まで供給不足
- クリストフ・フーケCEOによると、顧客は「少なくとも2028年までは自社の供給が需要に追いつかない」と見ており、新工場の計画を前倒ししています。
- 顧客との話題はすでに2027年より先に移っており、2028年分の受注が多く入っているほか、2029年、さらに2030年分の発注に関心を示す顧客もいます。
- 2026年のEUV出荷は約65台で、前年比+50%超の見込みです。DUV液浸は、1年前の時点では台数が減る計画でしたが、前年並みに戻りました。
- 前回示した「2027年に生産能力+30%、2028年にさらに+30%」では顧客の需要を満たせないとして、2028年以降のさらなる増強を検討しています。
値上げ交渉が完了
前回の決算で触れていた「価値に見合った価格設定」について、ダッセンCFOは主要顧客との交渉が完了したと説明しました。効果は2026年にはほぼ表れず、2027年に一部、2028年以降に本格的に表れるとのことです。来年以降の利益率を考えるうえで重要なポイントです。
生産性の向上
- EUVの新機種NXE:3800Fは、処理能力を毎時230枚から260枚に引き上げます。2027年に少量導入し、2028年以降に本格化する予定です。
- 2027年に出荷する主要な液浸DUVは、毎時330枚に仕様を引き上げます。
- 既存装置のアップグレードは、顧客の工場の設置面積を変えずにすぐ生産能力を増やせるため、好評とのことです。
High NA EUVの採用時期
| 顧客 | 量産での採用 |
|---|---|
| Intel | 既に量産で稼働中。使用するレイヤーを拡大中 |
| Samsung | 2028年から |
| TSMC | 2030年ごろ |
ASMLとTSMCは9月、High NA EUV向けのフォトマスクを6インチから12インチに大型化する業界イニシアチブを発表しました。2031年にパイロットライン、2033年に量産対応を目指しており、ダブルマスク露光では生産性が40%以上高まる見込みです。フーケCEOによると、他の主要顧客も全社がこのコンソーシアムに参加しています。
次世代の計測装置
重ね合わせ計測装置「YieldStar 550」を出荷しました。14オングストローム世代のロジックや1D DRAMに対応し、生産性は60%以上向上します。
次回の投資家向けCapital Markets Dayは2027年6月10日の予定です。市場と技術の変化を反映して、長期見通しを更新するとしています。
⑩ 注視すべきポイント
① 中国比率が四半期で23%に上昇。輸出規制の強化や、前倒し需要の反動に注意が必要です
② 第4四半期は売上142〜152億€と大きな積み上げが前提で、出荷を予定どおり実行できるかが問われます
③ 需要があっても作れない状態が続くと、売上の機会が先送りされます
④ 2029〜2030年分の「発注への関心」は確定した受注ではありません(会社もリスク要因に明記)
⑤ 第3四半期の純利益には、一時的な評価益(約5億€)が含まれています
第3四半期は、売上・利益・粗利率のすべてで過去最高を更新し、前受金の急増が受注の強さを裏付けました。経営陣は2028年まで供給不足が続くと見ており、生産能力の増強と値上げの効果が重なる2027〜2028年が次の焦点です。一方で、中国比率の上昇と第4四半期の大きな積み上げは、引き続き確認が必要です。
データについて:本記事の数値はASMLが2026年10月14日に公表した資料に基づきます。技術別・地域別の金額は、会社が開示した比率に装置売上を掛けた概算です。執筆時点では信頼できる市場予想(アナリストのコンセンサス)が確認できなかったため、会社ガイダンスとの比較で評価しています。株価の反応は、執筆時点で取引開始前のため掲載していません。
主な出典
- ASML『ASML reports €11.7 billion total net sales and €5.0 billion net income in Q3 2026』(2026年10月14日)
- ASML『Financial Statements US GAAP Q3 2026』(2026年10月14日)
- ASML『2026 third-quarter results』投資家向けプレゼンテーション(2026年10月14日)
- ASML『Transcript: Video interview with ASML CEO Christophe Fouquet and CFO Roger Dassen』(2026年10月14日)
- ASML『ASML reports €9.3 billion total net sales and €2.9 billion net income in Q2 2026』(2026年7月15日)
✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年
ファンダメンタルを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。たまにチャート分析もします。ナンピンは得意です。
X(旧Twitter):@pablo29god
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