2026年9月28日、厚生労働省の「障害福祉報酬改定検討チーム」(第64回)で、就労系障害福祉サービスの報酬と基準をめぐる論点が示されました。特に就労継続支援B型には、在宅支援の絞り込みや報酬体系の見直しなど、厳しい内容が並んでいます。
この記事では、就労系サービスの種類を整理したうえで、改定案の中身と、ルールが厳しくなる経緯、そして問題点を見ていきます。
今回の資料は「検討の方向性」を示したもので、決定ではありません。
就労系障害福祉サービスとは
障害のある人の「働く」を支える福祉サービスは5種類あります。大まかな流れは、入口で相談し(就労選択支援)、就職を目指して訓練する(就労移行支援)か福祉の場で働き(A型・B型)、就職後はフォローを受ける(就労定着支援)というものです。
就労選択支援
2025年10月に始まった一番新しいサービスです。利用期間は原則1か月で、短期間の作業体験や面談を通じて、本人の希望や能力に合った働き方を見極めます(アセスメント)。本人と関係機関が集まる会議で進路を整理し、次のサービスにつなぎます。B型を新しく利用する人は、原則ここを通ります。
就労移行支援
一般企業への就職を目指す人の訓練の場です。ビジネスマナーやパソコン作業、企業実習などを受けながら、就職活動を進めます。利用期間は原則2年で、給料は出ません。
就労継続支援A型
事業所と雇用契約を結んで働くサービスです。最低賃金以上の給料が出て、労働法も適用されます。事業所には、利用者の給料を国からの給付費ではなく、事業の売上で払うことが義務付けられています。
就労継続支援B型
雇用契約を結ばずに働くサービスです。作業の対価として「工賃」を受け取ります。体調に合わせて、短時間や週数日の利用もできます。50歳以上の人や障害基礎年金1級の人は、就労選択支援を経ずに直接利用できます。
就労定着支援
一般企業に就職して6か月が経った人を、最長3年間フォローします。職場の悩みや生活リズムの相談に乗り、必要に応じて会社との間に入って調整します。
| サービス | 雇用契約 | お金 | 利用期間 | 事業所数・利用者数 |
|---|---|---|---|---|
| 就労選択支援 | なし | なし | 原則1か月 | 452か所・約1,000人 |
| 就労移行支援 | なし | なし | 原則2年 | 2,724か所・約3.9万人 |
| A型 | あり | 賃金(平均月約9.1万円) | 制限なし | 4,330か所・約8.7万人 |
| B型 | なし | 工賃(平均月約2.4万円) | 制限なし | 20,401か所・約43万人 |
| 就労定着支援 | 就職先と契約 | なし | 最長3年 | 1,859か所・約2.1万人 |
※事業所数・利用者数は2026年4月の国保連データ。平均賃金・平均工賃は2024年度の数字です。
事業所数・利用者数ともに、B型が大半を占めていることがわかります。
今回の改定案のポイント
例年どおりなら、年末に改定の概要が公表され、年明けに告示、2027年4月に施行されます。資料にも「さらに論点を追加する予定」と書かれています。
全サービス共通の論点
- 在宅支援の対象を「通所を上回る効果がある人」(重度・離島、ひきこもりからの段階的な通所、在宅での就職希望者)に限定し、基本報酬の引き下げと在宅利用者割合の上限を設ける
- 施設外就労の就労先の企業名や距離(例:2時間以内)を明記させ、就労先ごとの収支を公表させる
- B型の新規利用時に、市町村がチェックリストで支給決定の適否を審査する
- 国のガイドラインの内容を、指定基準などに格上げする
- 生産活動シートの公表を義務化する
- 2027年4月から、A型の新規利用者にも就労選択支援を原則適用する
B型
- 報酬を平均工賃だけで決める方式をやめ、スコア方式(工賃、支援時間、障害の程度、地域連携、透明性、指定基準の遵守など)に変える
- 「生産活動の収支 ≧ 工賃総額」を指定基準に入れる
- 平均工賃を計算するときの開所日数に、年269日の上限を設ける
A型
スコアの配点を見直し、労働時間と生産活動の比重を下げて、「障害の程度」「事業の透明性」など支援の質に関わる項目を評価に加えます。
就労移行支援
就職後6か月間の支援を、回数と内容に応じて報酬で評価できるようにします。定着率5割超の上位区分も新設し、早く就職させて定着させる事業所を評価します。
就労定着支援
離職後に再就職した人を「定着者」として数えられる期間を、1か月以内から3か月以内に緩和します。
就労選択支援
同一法人の事業所へ誘導することを防ぐため、減算の基準を「8割」から「3割」程度へ厳しくし、関連法人も対象に含めます。本人の選択肢を不当に狭める行為も、運営基準で禁止する案です。
B型は「ルールの厳格化」、就労移行支援は「評価アップ」、A型は「配点の組み替え」です。報酬を何で評価するか、その物差しを組み替える改定と言えます。
なぜB型のルールは厳しくなるのか
資料には「支給決定の厳格化」「ガイドラインの厳格化」といった見出しが並びます。事業所や関係団体からは、一律の報酬減額や利用時間による評価への懸念も出ていますが、背景には次の事情があります。
2021年頃からの急増
B型は以前から増えていましたが、2021年度以降に伸びが加速しました(いずれも1か月平均)。
| 項目 | 2021年度(月平均) | 2025年度(月平均) | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 事業所数 | 14,607か所 | 19,615か所 | 約34%増 |
| 利用者数 | 約29.8万人 | 約41.2万人 | 約38%増 |
| 費用額 | 約4,432億円 | 約7,151億円 | 約61%増 |
費用額は障害福祉サービス全体の約2割を占めます。2023年度から2024年度にかけての伸びは20.1%で、全サービスの中で最大だったと、関係団体は指摘しています。
背景には、事業所が開きやすくなったことと、利用したい人が増えたことの両面があります。2020年6月のコロナ対応で在宅利用の条件が緩和され、2021年度の改定では、工賃の額に関係なく一律に報酬が出る体系も設けられました。一方、B型を利用する精神障害者は、2023年12月の約14.3万人から2025年12月には約18.8万人へ、2年で3割以上増えています。
不適切な運営の広がり
B型は雇用契約がなく最低賃金の縛りもないため、参入しやすい面があります。資料や関係団体のヒアリングでは、次のような運営が指摘されています。
- 在宅の「生産活動」と称して、eスポーツや1日数回の水やりなど、仕事と呼べない活動をさせる
- 「弁当無料」「クオカード贈呈」などの特典で利用者を集める
- 給付費を委託費などの名目で外部に回し、それを元手に工賃を払う
財務省の予算執行調査での指摘
予算執行調査では、2024年度に「利用時間が4時間未満の事業所ほど収支差率が高い」、2026年度に「在宅利用者がいる事業所ほど収支差率が高い」と指摘されました。今回の「支援時間の評価」や「在宅支援の報酬引き下げ」に直結しています。
前回改定の副作用
2024年度の改定で平均工賃の計算方法を変えたところ、計算上の平均工賃が約6千円上がり、想定以上に多くの事業所が高い報酬区分に移りました。国は3年に1度の定期改定を待たず、2026年6月に、報酬区分の基準額を3千円引き上げる臨時の見直しを行っています。
A型での前例
A型では2017年4月、生産活動の収支で賃金を払うことが指定基準で義務付けられ、給付費から賃金を払うことが原則禁止されました。同じ年の7月には、岡山県倉敷市のA型事業所5か所が一斉に閉鎖され、約220人が解雇されています。今回B型に同じ収支ルールを入れる案は、A型での手法をB型にも広げるものです。
絆ホールディングスの不正受給事件
2026年3月、大阪市は、絆ホールディングスのグループ会社などが運営するA型事業所4か所の指定取り消し(5月1日付)を発表しました。利用者を自社スタッフとして6か月以上雇用した後、再び利用者に戻すことを繰り返し、一般就労への移行を評価する加算を不正に受け取っていたと認定されています。不正額は大阪市分で約79億円、ほかの自治体分を合わせると約150億円に上ります。
事業所は4月末に閉鎖され、1,000人以上の利用者に影響が出ました。大阪市は代表ら5人を詐欺の疑いで刑事告訴しています。会社側は「不正と評価されたところは承服しかねる」として、処分の取り消しを求めて市を提訴しており、争いは続いています。
資料では、自法人(関係法人を含む)への就職を0.5人分として数えること、同じ就職先の計上人数に上限(例として5人まで)を設けることが、検討の方向性として示されています。この手口を防ぐ狙いと見られます。
改定案の問題点
精神障害者・短時間利用者への影響
B型利用者の4割超は精神障害者で、体調の波から長時間通えない人も少なくありません。「支援時間」がスコアに入ると、短時間利用の多い事業所が不利になります。関係団体も強く反対しており、最終案で配慮措置が入るかどうかが大きな分かれ目です。
良い事業所ほど満員で、受け皿が足りない
ルールを守って運営している事業所ほど、利用者が定着して空きが出ません。筆者が見聞きした範囲では、「見学はできても契約できず、順番待ちになる」事業所もあります。一方で、特典で利用者を集めるような事業所には空きがあり、すぐ契約できてしまいます。
不適切な事業所が淘汰されれば、利用者は良い事業所に流れようとしますが、そこはすでに満員です。人材不足や、自治体による新規指定・定員増の制限(総量規制)もあり、良い事業所を増やすのは簡単ではありません。「悪い事業所を減らす政策」はあっても、「良い事業所を増やす政策」が弱いことが、今回の案の弱点だと思います。
真面目な事業所の事務負担
生産活動シートの作成・公表やチェックリストの提出など、新しい事務負担は、不正をしていない事業所にもかかります。小規模な事業所ほど負担は重くなります。
就労選択支援の整備不足
就労選択支援の事業所は全国で約450か所しかなく、地方では整備が遅れています。2027年4月にA型の新規利用者まで対象が広がれば、アセスメントの順番待ちが起きるおそれがあります。
出口側の課題
企業の法定雇用率は2026年7月に2.7%へ上がりましたが、直近の集計(2025年6月1日時点、当時の法定雇用率は2.5%)で達成していた企業は46.0%でした。精神障害者の就職1年後の定着率は49.3%とされますが、これは2017年の調査の数字で、同じ形式の新しい全国調査は見当たりません。B型から一般就労へ送り出す流れを強めるなら、その先の受け入れと定着のデータも欠かせません。
厳格化の副作用
行き場を失った人が生活介護や生活保護、入院に移れば、社会全体のコストはかえって高くなるという反論も、関係団体から出ています。
まとめ
- 今回の資料は決定ではなく、論点整理の段階です。
- B型は厳格化、就労移行支援は評価アップという「報酬の評価軸の組み替え」です。
- 背景には、費用の急増、不適切な運営、絆ホールディングスのような大型不正があります。
- 焦点は、悪い事業所だけを狙い撃ちできるか、そして良い事業所の受け皿を増やせるかです。
参考にした資料・報道
本記事は2026年9月29日時点の情報に基づきます。
- 厚生労働省:就労系サービスに係る報酬・基準について≪論点等≫(障害福祉報酬改定検討チーム 第64回資料、2026年9月28日)
- 厚生労働省:令和7年 障害者雇用状況の集計結果(2025年12月)
- 障害者職業総合センター:調査研究報告書No.137 障害者の就業状況等に関する調査研究(2017年4月)
- 福祉新聞:障害報酬不正受給で絆HDの4事業所指定取り消し 大阪市が110億円の返還請求(2026年3月)
- 関西テレビ:障害者就労支援で79億円「不正受給」 大阪市が絆ホールディングスを刑事告訴(2026年5月1日)
- 政治山:相次ぐ閉鎖と障害者の大量解雇―A型事業所の在り方を問うフォーラム開催(2018年4月)
✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年
ファンダメンタルを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。たまにチャート分析もします。ナンピンは得意です。
X(旧Twitter):@pablo29god
免責事項
本記事は、2026年9月28日に公表された厚生労働省の会議資料などをもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。資料の内容は検討段階の案であり、今後変更される可能性があります。制度の最終的な内容は、厚生労働省などの公式発表をご確認ください。個別の利用や手続きについては、お住まいの市区町村や事業所にご相談ください。事実関係の正確性には注意していますが、内容の完全性・最新性を保証するものではありません。


コメント