キャッシュレスと現金、日本はどちらが得か?手数料・ポイント・海外事情から考える

ニュース解説

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日本のキャッシュレス決済比率は2025年に58.0%まで上がった。ただ、店が払う手数料は約3%と海外より高く、その手数料がポイント還元の原資になっている。ポイントは大手の経済圏で使われやすく、中小店や現金客が負担を背負う構図がある。一人の日常はキャッシュレスで効率よく、人と過ごす場面は現金で気持ちよく。


①日本は手数料の法的規制がなく、還元が厚い「米国型」。EUは上限規制で還元が薄い
②中小店と現金客から、大手経済圏とポイ活上手へお金が流れる
③友人や同僚との外出には、現金を1〜2万円持っておくと関係がこじれない

1. 日本のキャッシュレスは58%、主役はクレジットカード

経済産業省は2026年3月31日、2025年のキャッシュレス決済比率を58.0%と発表した。決済額は162.7兆円。今回から指標が変わり、海外と比べるための従来の指標(国際比較指標)では46.3%となる。政府は2030年までに国内指標で65%、将来的には80%を目指している。

決済手段構成比(2025年)決済額
クレジットカード82.7%134.6兆円
コード決済10.2%16.6兆円
電子マネー3.7%6.0兆円
デビットカード3.4%5.5兆円

日本の支払い手段の内訳(2025年・金額ベース)

クレジットカード 48.0%
コード決済 5.9%
電子マネー 2.1%
デビットカード 2.0%
キャッシュレス以外(現金など) 42.0%

出所:経済産業省(2025年)。民間最終消費支出に占める金額ベースの比率。キャッシュレス決済比率58.0%に、その内訳(クレジットカード82.7%など)を掛け合わせて筆者が算出。「キャッシュレス以外」には現金のほか、銀行振込や口座振替なども含まれる。国・地域によって統計の取り方が異なるため、海外の数字とは単純に比較できない。

日本のキャッシュレスは、ほぼクレジットカードで成り立っている。海外を見ると、普及の担い手は国によってまったく違う。韓国は通貨危機後の政府主導のカード促進、中国はAlipayやWeChat Payといった民間のQR決済、ASEAN諸国は中央銀行主導のQR標準化、欧州はデビットカードが中心だ。

アジア:政府と中央銀行が主導

韓国:1997年のアジア通貨危機の後、政府が消費の立て直しと脱税防止のためにクレジットカードの利用を後押しした。年間カード利用額の20%の所得控除(上限30万円相当)、カード利用に応じた宝くじの参加権、年商240万円相当以上の店へのカード取り扱いの義務化といった策で、1999年から2002年にかけてカードの発行枚数は2.7倍、利用金額は6.9倍に増えた。経産省の「キャッシュレス・ビジョン」では、2015年の韓国のキャッシュレス比率は89.1%と、世界で最も高い水準とされている。

そのカード大国の韓国でも、中小店のカード手数料の負担は問題になっている。ソウルでは手数料負担の軽減を目的にQR決済「ゼロペイ」が導入され、2019年4月に加盟店が10万店を超えた。また韓国では、誰かがまとめて会計し、あとでアプリで送金する割り勘が日常的だという。

中国:店頭での決済は、アントグループのAlipayとテンセントのWeChat Payが5割超のシェアを占める。民間企業のアプリだが、お金の移動は中央銀行が2010年に構築した即時決済システムで、銀行口座を介して行われている。

インド:2016年に始まった統一決済インターフェース(UPI)が、QRコードでの支払いを一気に広げた。運営はインド決済公社(NPCI)で、2025〜26年度の年間取引件数は2,416億件超と、10年で約1万3,000倍になった。2026年7月には月間の取引件数が過去最高の236.6億件に達し、国際通貨基金(IMF)も取引件数で世界最大の即時決済システムと認めている。

東南アジア:タイのPromptPay(2016年)、シンガポールのPayNow(2017年)など、各国の中央銀行が銀行口座直結の即時決済システムをつくり、2017年ごろから国ごとの統一QR(Thai QR、SGQRなど)を導入した。2021年にはタイとシンガポールの即時決済がつながり、タイとマレーシアの間では、旅行者が相手国のQRコードを読み取って店で払えるようになっている。日本も2022年12月、経産省が統一QR規格「JPQR」とインドネシアの「QRIS」の相互運用に向けた覚書を、インドネシア銀行と結んでいる。

アジアの多くの国では、カードの仕組みが行き渡る前に、国や中央銀行が主導して、銀行口座と直結したQR決済を広げてきた。民間企業が主役の日本のQR決済とは、成り立ちが大きく違う。

アメリカ:クレジットとデビットの二本柱

米連邦準備制度の消費者調査によると、2025年の支払い回数のうちクレジットカードが34%、デビットカードが31%を占め、カードだけで3分の2近くになる。現金は14%で3番目。2015年は現金が3分の1で最も多かったが、2018年にデビットが現金を上回り、2022年にはクレジットがデビットを上回った(日本の数字は金額ベース、アメリカは回数ベースのため単純比較はできない)。所得による違いもあり、年収15万ドル以上の世帯は60%がクレジットを好む一方、5万〜7.5万ドルの世帯ではデビットが47%で最も多い。

アメリカの支払い手段の内訳(2025年・回数ベース)

クレジットカード 34%
デビットカード 31%
現金 14%
その他 21%

出所:米連邦準備制度の消費者調査(2025年、Pew Research Centerによる集計)。支払いの回数ベースで、金額ベースの日本の数字とは基準が異なる。「その他」は口座振替や小切手など。国・地域によって統計の取り方が異なるため、単純に比較はできない。

QR決済は、PayPalと傘下のVenmoが手がけ、薬局チェーンのCVSが全米規模の小売として最初に導入した。ただ、支払いの主役はあくまでカードで、QR決済は広がっていない。カード端末とタッチ決済がすでに行き渡り、クレジットの還元も厚いため、わざわざQRに乗り換える理由が薄い。

ヨーロッパ:国ごとのQRアプリと「Visa・Mastercard離れ」

欧州には、スイスのTWINT、ベルギーのPayconiq、スペインのBizum、ポルトガルのMB Way、イタリアのBancomat、北欧のVipps MobilePayなど、銀行口座と直結した国ごとの決済アプリがあり、店頭でQRコードを使って払う仕組みもある。ただし、互いに互換性はなかった。

2026年2月2日、Bancomat、Bizum、SIBS-MB WAY、Vipps MobilePay、EPI(決済サービス「Wero」の運営会社)が、各国の決済アプリをつなぐ覚書を結んだ。参加サービスの利用者は合計約1億3,000万人。4月16日には、QRコードによる国境を越えた店頭決済の実証に成功したと発表し、2027年には13カ国の店舗やネットで相互に買い物ができるようにする計画だ。カードもネット決済も米国系のインフラに頼ってきた欧州が、独自の決済網をつくろうとしている。

一方で、ユーロ圏は意外に現金が多い。欧州中央銀行(ECB)の2024年の調査では、店頭での支払い回数の52%が現金だった。金額ベースではカードが45%で最も多く、現金39%、モバイルアプリ7%と続く。

ユーロ圏の店頭での支払い手段の内訳(2024年・金額ベース)

カード 45%
現金 39%
モバイルアプリ 7%
その他 9%

出所:欧州中央銀行(ECB)の消費者調査(2024年)。ユーロ圏の店頭での支払いの金額ベース。回数ベースでは現金が52%と最も多い。国・地域によって統計の取り方が異なるため、単純に比較はできない。

同じQRでも、日本ではPayPayなどの民間企業が、中小店でも安く簡単に入れられる決済として広げてきた。欧州では銀行の連合が、「決済の主権」を取り戻す手段としてQRを使おうとしている。

2. 加盟店手数料:日本は海外より高い

日本でクレジットカード決済を受け付ける店の手数料は、3%前後が普通だ。経産省の検討会資料(2020年)では、年間売上高5千万円未満の加盟店の平均手数料率は4.0%で、小さい店ほど高い構造になっている。

同じSquareで国ごとに比べると、小規模加盟店向けの対面決済は日本2.5%、英国1.75%、豪州1.6%、米国2.6%+1件15セントとなる(日本の2.5%は、年間キャッシュレス決済額3,000万円未満の中小事業者などが対象)。

Squareの小規模加盟店向け対面決済手数料

米国
2.6%+15セント
日本
2.5%
英国
1.75%
豪州
1.6%

出所:アゴラ「日本のクレカ・電子マネー手数料はなぜこんなに高いのか」掲載のSquareの料率。米国は料率に加えて1件ごとに15セントがかかる。日本の2.5%は、年間キャッシュレス決済額3,000万円未満の中小事業者などが対象。

地域インターチェンジ(発行会社への手数料)の規制
EU上限あり:デビット0.2%、クレジット0.3%
米国デビットのみ上限あり(ダービン修正条項)
日本法的な上限なし(標準料率の公開のみ)

日本は上限規制ではなく、国際ブランドに標準料率を公開させる「透明化」の路線をとっている。Visaが公表している日本国内のクレジットのインターチェンジ標準料率(一般カード)を見ると、「一般・その他」が2.28%、「大型小売・ホテル」が1.85%、「中小企業向け導入料率」が1.50%、「少額決済店舗」が0.90%などとなっている。

区分(Visa・国内クレジット)クラシックゴールドプラチナ等
一般・その他2.28%2.38%2.58%
大型小売・ホテル1.85%1.95%2.15%
中小企業向け導入料率1.50%1.50%1.50%
少額決済店舗0.90%1.00%1.20%
公共料金0.60%0.70%0.90%

出所:Visa「インターチェンジ・フィー(IRF)」の国内クレジット標準料率から抜粋。「プラチナ等」はPlatinum/Commercial/Rewards Creditの区分。多くの区分で、ランクの高いカードほど料率が高い。デビットの料率は公表されていない。

ただし、VisaもMastercardも、公表しているのはクレジットの料率だけだ。デビットの料率は公表されていない。店側から見ても、Squareのように手数料はカードブランドごとに一律で、クレジットかデビットか、差し込みかタッチ決済かで料率が変わることは基本的にない。

3. ポイント還元の原資は店の手数料

カードのポイント還元は、主にインターチェンジから賄われている。米国はインターチェンジが高いため還元が手厚く、高額の入会ボーナスや高い還元率が珍しくない。一方、EUでは上限規制の恩恵が加盟店に回り、その代わりに消費者向けのリワードは薄くなった。手数料が約3%の日本は、還元が厚い「米国型」に近い。

この仕組みには、見えにくいお金の流れがある。

手数料がポイントになり、大手経済圏へ流れるまで

① 中小店
カード払いのたびに、売上の約3%を手数料として払う
▼
② カード会社
手数料の一部(インターチェンジ)を、ポイント還元の原資に回す
▼
③ 客
買い物の金額に応じてポイントを受け取る
▼
④ 大手経済圏
ポイントは楽天・PayPay・Vポイントなど、大手のサービスで使われやすい

※店は手数料分を価格全体に織り込むため、現金で払う客もポイントの原資を間接的に負担している。

結果として、中小店が払った手数料が、ポイントという形で客を大手へ送り出す「送客費」のような役割を果たしている面がある。しかも日本ではカード会社との規約上、カード払いの客にだけ手数料を上乗せすることは原則できない。店は手数料分を全体の価格に織り込むしかなく、現金で払う客もポイントの原資を負担しながら、自分は還元を受けないことになる。

得をするのはポイントを上手に使う客と、ポイントの受け皿を持つ大手。負担しているのは、中小店と現金しか使わない客だ。

4. 店にとって現金はコストの安い決済手段

日本の現金は、偽造の心配がほとんどない。警察庁によると、2023年に見つかった偽造紙幣は681枚で、2000年以降のピーク時の30分の1にまで減っている。

現金流通高の対GDP比は、2015年末時点で日本19.4%と、ユーロ圏10.6%、米国7.9%、英国3.7%を大きく上回る。日本銀行は理由として、治安が良いこと、偽札が少なく銀行券への信認が高いこと、低金利で現金を持つ機会費用が小さいことを挙げている。

ここで注意したいのは、低金利が効くのは現金の「保有」(いわゆるタンス預金)の話で、レジでの「支払い」の選択とはほぼ関係がないことだ。マイナス金利だったスウェーデンやユーロ圏でもキャッシュレス化は進んだ。「現金流通高が多い=現金払いが多い」とは言えない。

店の立場で比べると、こうなる。

観点現金キャッシュレス
手数料なし2.5〜3.24%前後が中心
偽造リスクほぼなし—
入金受け取った瞬間に完了入金日まで待つ
手間・リスクレジ締め、釣銭、入金、盗難二重管理、障害時の停止、決済会社の信用

現金の手間もゼロではない。ゆうちょ銀行は2022年1月から硬貨の入金を有料化し、ATMでは1枚目から、枚数に応じて手数料がかかるようになった。それでも利益率が数%しかない個人店にとっては、3%の手数料より現金の手間のほうが安い、という判断は十分に合理的だ。海外で現金が嫌われる理由の多くが日本には当てはまらず、キャッシュレスの利点が相対的に小さくなっている。

古の「ガッチャン」はほぼ絶滅

カードの凹凸(エンボス)を複写式の伝票に写し取るインプリンター、いわゆる「ガッチャン」は、電気も通信もいらない、究極のオフライン決済だった。今ではほとんど見かけないが、カード会社の会員規約には今も「インプリンター加盟店」という区分が残っており、オンライン端末のない一部の店では使われているという。

そこへ、カード番号すら券面に載っていない「ナンバーレスカード」が広がっている。三井住友カードは2021年2月に発行を始めた。凹凸のない平らなカードはインプリンターでは写せず、伝票に番号を手書きすることも認められていない。規約でも、エンボスのないカードはインプリンター加盟店では使えないと定めている。キャッシュレスの進化が、カードの側から古い決済を締め出している形だ。

5. 大手小売の3つの答え:オーケー・ロピア・ドンキ

手数料とポイントの問題に、大手スーパーはそれぞれ違う答えを出している。

※この3社を取り上げたのは、筆者の生活圏で比べられるスーパーがたまたまこの3社だったためです。ほかのスーパーやチェーンにも独自の工夫があるはずで、支払い方法や割引の条件は地域や店舗によって異なる場合があります。最新の条件は各社の公式情報でご確認ください。

店タイプ仕組み
オーケー値引き型会員の現金払いで本体価格×3/103(約3%)割引。カード払いは対象外
ロピア閉鎖型店頭は現金と自社アプリ決済のみ。カード・口座チャージには利用料
ドン・キホーテ誘導型主要な決済は受け付けつつ、自社電子マネー「majica」へ誘導

オーケー:手数料を「見える化」

オーケーはオーケークラブ会員(カード発行200円)の現金払いに限り、本体価格の3/103、約3%を割り引く。カード払いへの上乗せは規約上できないが、現金払いの割引ならできる。割引率は加盟店手数料とほぼ同じで、現金客がカード客のポイントを負担する構図を打ち消す設計だ。

ロピア:入口で断り、使う人が負担

ロピアは店頭でクレジットカードやコード決済を受け付けず、2025年3月から公式アプリにプリペイド型の決済機能を加えた。現金チャージは無料だが、クレジットカードや銀行口座からのチャージにはシステム利用料がかかる。開始当初はチャージ額の平日1.1%、土日2.2%だったが、2025年4月8日からは1回あたり平日220円、土日祝(およびロピアの指定日)330円の定額に変わった。チャージ特典の独自ポイント「C」は支払いには使えず、グッズや体験との交換用。ポイントがほかの店に流れない、閉じた設計になっている。

ドン・キホーテ:全部受けて、自社へ流し込む

ドンキは主要な決済手段を幅広く受け付けたうえで、2014年に始めた電子マネー「majica」へ客を誘導する。アプリ会員は2024年に1,400万人を突破した。2024年6月のキャンペーンでは、プライベートブランド商品の購入で10〜50%のポイントを還元するなど、利益率の高いPBを原資に自社の決済へ客を引き寄せている。

3社に共通するのは、外部のポイントに客を持っていかれないための仕組みだという点だ。ただ、自社の決済を作る規模も、PBで原資を生む利益構造も、中小店にはない。キャッシュレス時代の手数料問題は、「自前の経済圏を持てるかどうか」の格差にもなっている。

6. ポイント経済圏とPayPay

共通ポイントは、通信会社や金融グループを軸にした経済圏として広がっている。

ポイント主な軸
楽天ポイント楽天市場・楽天カード
dポイントドコモの通信契約
VポイントSMBCグループ(2024年4月に旧Tポイントと統合)
PontaポイントKDDI・ローソン・リクルート
PayPayポイントソフトバンク・LINEヤフー

Pontaは街中ではローソンの印象が強いが、提携店は約31万店舗(2025年3月1日時点)、会員は約1億2,097万人(2025年2月末時点)にのぼる。じゃらんやホットペッパーなどリクルート系のネットサービスや、au PAYとの連携が強みだ。

そのなかでPayPayは別格だ。登録ユーザーは2026年8月に7,500万人を突破し、日本のスマホユーザーの約4人に3人が使っている。2025年の決済回数は88.8億回で、国内のキャッシュレス決済回数435億回の20%超を占める。コード決済での送金シェアは約98%に達する。ポイントで客を囲い込むのではなく、どの店で払ってもPayPayを通る状態をつくった。中小店も「PayPayが使えないと客が来ない」となれば、手数料を払ってでも導入せざるを得ない。決済の「通行料」を取る立場を握っているのが強みだ。

7. 全東信の破綻:キャッシュレスの売上は「債権」

2026年7月6日、クレジットカード決済代行の全東信(大阪市)が大阪地裁から破産手続き開始の決定を受け、事業を停止した。飲食業やサービス業を中心に、全国で約20万とされる加盟店を持っていた会社だ。東京商工リサーチなどによると、2025年3月期決算時点の負債は約1,259億円と報じられている。

破産管財人によると、7月5日までの売上金が入金されていない店舗は少なくとも2万店を超え、未入金は総額約54億円にのぼった。端末も使えなくなり、店は売上が入らないなかで、別の決済会社への切り替えも迫られた。9月25日、破産管財人はカード会社が資金を準備して未入金分を加盟店に支払うと発表し、10月中にも全額が入金されるめどがついた。

日付(2026年)出来事
7月6日大阪地裁が破産手続き開始を決定。事業を停止し、決済端末も使用不可に
7月17日破産管財人:7月1〜5日の売上金が未入金の店は少なくとも2万店超、計53億円。6日以降も一部の端末が作動し、数千万円の売上金が発生
9月25日破産管財人:カード会社が資金を準備し、未入金分(総額約54億円)を加盟店に支払うと発表
10月中全額が入金される見通し

出所:Impress Watch、熊本日日新聞(共同通信)の報道をもとに作成。

最終的に穴は埋まりそうだが、中小店の資金は3か月近く止まった。現金は受け取った瞬間に支払いが完了する。一方、キャッシュレスの売上は、入金されるまでは決済会社への「債権」にすぎない。手数料の安さや入金の早さと、決済会社の倒れにくさは、トレードオフになりやすい。

8. デビットカード:審査なしで使えるキャッシュレス

JCBの2024年度版調査では、デビットカードの保有率は29%、利用率は15%だった。クレジットカード(保有率87%、利用率83%)とは大きな差がある。1枚あたりの年間利用回数(2024年推計)も、クレジットカードの70.7回に対し、デビットは2.4回にとどまる。それでも、キャッシュレス決済額に占めるデビットの比率は2017年の1.7%から右肩上がりで、2025年は3.4%(5.5兆円)になった。

項目クレジットカードデビットカード
保有率(2024年度)87%29%
利用率(2024年度)83%15%
1枚あたり年間利用回数(2024年推計)70.7回2.4回
発行時の審査あり原則なし
使える上限与信枠(月収を超えることも)口座残高まで
支払いのタイミング後払い即時引き落とし
発行側の貸し倒れリスクありほぼなし
店が払う手数料ブランドごとに一律で、同じ水準が一般的
ポイント還元厚め薄め(筆者の例で約0.3%)

出所:保有率・利用率はJCB「キャッシュレスに関する総合調査」2024年度版、年間利用回数はGlobalData。

日本でデビットが広がりにくい理由ははっきりしている。一括払いなら金利のかからないクレジットカードが、実質的に「後払いのデビット」として使われている。ポイントもクレジットカードのほうが厚い。店にとっても、デビットの手数料が安いわけではない。

筆者の実例:デビットカードで約3万円を支払って、還元は約100円。還元率にすると約0.3%で、EUがクレジットカードに設けている手数料の上限(0.3%)とほぼ同じ水準だ。

それでもデビットには、クレジットカードにない価値がある。

  • 審査なしで持てる:クレジットカードを持てない人にとっては、ネット通販やタッチ決済を使うための入口になる
  • 使いすぎない:限度額は口座残高そのもの。月収を超える与信枠があるクレジットカードのように、リボや分割払いにはまる心配がない
  • ATM手数料より安い:時間外にATMで現金を引き出せば手数料がかかる。デビットで直接払えば、還元は薄くても手数料はかからない

デビットは口座残高からすぐに引き落とされるため、発行する銀行に貸し倒れのリスクがなく、代金を立て替える資金負担もない。EUや米国ではデビットの手数料をクレジットより低く設定している。日本でも、まずはデビットのインターチェンジ料率の公開から始めてほしい。料率が見えれば、デビットが店にとって安い決済手段になり、「デビット払いなら割引」という店が出てくる余地が生まれる。

9. 交通系IC:「改札」と「レジ」の陣取り合戦

持っている人の多さで言えば、日本で一番普及しているキャッシュレスはおそらく交通系ICカードだ。Suicaだけで発行枚数は約1億2,000万枚、使える店は約218万4,000店(2025年9月末時点)にのぼる。審査も年齢制限もなく、子どもから高齢者まで持てる。駅ナカの自販機やコンビニで、飲み物からタバコくらいの少額を払う場面では、ほぼ一強と言っていい。

クレカのタッチ乗車は通勤には不向き

2026年3月25日、東京メトロ、東急、小田急、京王、西武、東武など関東の11社局で、クレジットカードのタッチ決済による乗車の相互利用が始まった。54路線・729駅が対象で、東京メトロはデビットカードやクレジットカード系のプリペイドカードにも対応している。ただし、JR東日本はこの相互利用に入っていない。

私鉄とJRの連絡改札は、2社の運賃を1回のタッチでまとめて精算する仕組みで、全国で相互利用できる交通系ICだからこそできる。クレジットカードのタッチ乗車ではこれができず、私鉄からJRへ乗り換えるには、いったん改札を出て入り直すことになる。処理速度も、交通系ICのFeliCaが0.1秒なのに対し、クレジットカードは0.5〜1秒かかる。

新宿駅は1日の利用者数が世界一の駅としてギネス世界記録に認定されている。JR東日本の新宿駅だけでも、2024年度の1日平均乗車人員は66万6,809人にのぼる。ラッシュ時の首都圏で乗り換えを繰り返す通勤客が、25年かけて慣れた交通系ICから乗り換える理由は薄い。クレジットカードのタッチ乗車は、主に訪日客や、たまに電車に乗る人向けの受け皿になりそうだ。

JR東日本はteppayでレジ側へ

JR東日本は2026年10月20日、モバイルSuicaのアプリでコード決済「teppay(テッペイ)」を始める。Suicaの上限だった2万円を超える買い物や、利用者どうしの残高の受け渡しができるようになる。マイナンバーカードで本人確認をすれば最大30万円まで使え、ビューカードを紐付ければ事前チャージも不要。モバイルPASMOでも2027年春に始まる予定だ。

改札は交通系ICが守りつつ、レジではPayPayの土俵にJR東日本が乗り込む。キャッシュレスの陣取り合戦は、「改札」と「レジ」の両方で進んでいる。

10. 結論:一人ならキャッシュレス、人と過ごすなら現金

キャッシュレスは本当に便利だ。財布すら持たず、スマホ1台で外出が完結する。普段の一人の買い物は、キャッシュレスで効率よく済ませるのがいい。

ただ、友人とご飯や飲みに行って、店が個別会計に対応していなければ割り勘になる。代表者に会計してもらい、あとからPayPayで送金するのが今どきのやり方だが、これが意外とモヤモヤする。

まず、送る側からは、代表者がどんな手段で払ったのかがわからない。クレジットカードで払っていれば、全員分の支払いのポイントは代表者1人に付く。受け取る代表者の側も、現金やカードで払ったお金が、PayPayの残高として返ってくる。PayPayをあまり使わない人にとっては、お金がひとつの経済圏に閉じ込められるようなものだ。「あとで送るね」が、そのまま忘れられることもある。

割り勘の観点現金PayPay送金
精算のタイミングその場で完了「あとで送る」が起きやすい
代表者の支払い手段関係ない送る側からはわからない
ポイントの行き先偏らない代表者がクレカなら全員分が代表者に
戻ってくるお金どこでも使える現金PayPayの残高
相手の経済圏問わない全員がPayPayを使っていることが前提
通信障害・システム障害影響なし止まることがある

現金なら、店を出る前にその場で精算が終わる。相手がどの経済圏の人でも関係ない。仲間内で行く居酒屋や個人店は、手数料を嫌って現金のみ、ということも多い。決済会社の破綻や通信障害で、キャッシュレスが止まることもある。

これからのキャッシュレスの時代こそ、友人や職場の同僚と外で何かをするときは、現金を1万〜2万円くらい持っておく。それが、その後の関係を気持ちよく保つことにつながる。行きつけの個人店で現金で払うのは、その店への合理的な応援にもなる。

📚 主な出典

✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年
ファンダメンタルを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。たまにチャート分析もします。ナンピンは得意です。/X(旧Twitter):@pablo29god

【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。掲載している分析・見解はぱぶちゃんのファンダメンタルlabによる独自のものです。市場価格は常に変動しており、本記事の内容について正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。執筆者は金融商品取引業者ではなく、投資助言業の登録も受けておりません。投資に関する最終判断はご自身の責任において行ってください。FX・先物・CFD取引はレバレッジを伴うため、元本を超える損失が生じる可能性があります。

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