日銀10月会合を総合分析|基調物価「2%整合」を初判断、それでも据え置いた理由とETF売却2.6倍

日本銀行
この記事は約24分で読めます。

9月会合の記事では、政策金利の引き上げとは別に、物価判断の「言い切り方」を巡る対立が生じていることを取り上げました。利上げに賛成した高田委員と田村委員が、「基調物価は既に目標の水準にある」として別紙の文言に反対していたためです。10月会合では、この対立に一つの答えが出ました。(前回記事:日銀9月会合の解説)

⏳ 30秒で読む結論

日銀は10月29・30日の会合で、基調的な物価上昇率が2%目標と「概ね整合的な水準」にあると初めて公式に判断しました。9月に高田・田村両委員が少数意見として主張した物価認識が、1カ月で政策委員会全体の判断になった形です。一方で政策金利は1.25%に据え置かれ、高田委員は1.5%への利上げを提案して反対しました。判断の焦点が、2%への到達から2%程度での安定へ移ってきたことが鮮明になった会合だと筆者はみています。


  1. 基調物価は2%と整合的と判断、ただし総裁は「目標達成ではない」
  2. 金利は8対1で据え置き、意見の違いは主に利上げの時期と速度
  3. ETF売却は2027年1月から年8,600億円(簿価)へ

決定内容の全体像

項目内容採決
金融市場調節方針無担保コールレート(翌日物)1.25%程度で据え置き賛成8・反対1
ETF売却ペース年3,300億円程度→8,600億円程度(簿価)、2027年1月から全員一致
J-REIT売却ペース年50億円程度(簿価)で据え置き―
展望レポート基本的見解基調物価は2%目標と「概ね整合的な水準」全員一致(会見での総裁の説明)
長期国債買入れ公表文に変更の記述なし(四半期予定の日程更新のみ)―

決定内容は30日12時02分に公表されました。今回は展望レポートの公表月で、物価判断、金利、ETFの3つが同時に動いています。

日銀の政策金利(無担保コールレート誘導目標)の推移

2013年4月〜2024年3月 量的・質的緩和、マイナス金利、 長短金利操作(金利線は表示せず) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 1.25 1.50 2006 2010 2014 2018 2022 2026 2006年3月 量的緩和解除・概ねゼロ% 2006年7月 0.25% 2007年2月 0.5% 2008年10月 0.3% 2008年12月 0.1% 2010年10月 0〜0.1% 2024年3月 0〜0.1% 2024年7月 0.25% 2025年1月 0.5% 2025年12月 0.75% 2026年6月 1.0% 2026年9月 1.25% 2026年10月 1.25%(据え置き) 26年10月 1.25%(据え置き) 07年2月 0.5%

出所:日本銀行の公表文・解説資料、報道。2006年3月に量的緩和を解除して操作目標を無担保コールレートに戻した以降を表示。2013年4月〜2024年3月は操作目標がマネタリーベースや長短金利などに変わり、2016年1月からは政策金利残高に−0.1%を適用したため、金利の線を表示していません。「0〜0.1%程度」の期間は0.05%の位置に描いています。1990年代末のゼロ金利政策や2001〜2006年の量的緩和の期間は表示範囲外です。

2024年3月にマイナス金利を解除して以降、日銀は6回の利上げで政策金利を1.25%まで引き上げてきました。今回の据え置きで、この水準が続きます。

基調物価は2%と整合的、しかし金利は据え置き

今回の会合で最も重要なのは、政策金利の据え置きそのものではありません。日銀が基調物価の2%整合を認めながら、なぜ利上げを急がなかったのか、という点です。

日銀が判断したこと(事実)

基本的見解は、人手不足のもとで賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上がるメカニズムが働き、中長期の予想物価上昇率も2%程度になっていると説明しています。そのうえで、消費者物価の基調的な上昇率は2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準にあり、先行きも同程度で推移するとしました。根拠として、刈込平均値などのコア指標、予想物価上昇率、トレンドインフレ率の「多くが2%近傍にある」ことを挙げています。

さらに、物価のリスクバランスは「上振れリスクの方が大きい」とし、金融環境は「緩和した状態」と評価しています。

消費者物価指数の前年比(全国)

総合コア(除く生鮮)コアコア(除く生鮮・エネルギー)
-1 0 1 2 3 4 物価目標2% 2016 2018 2020 2022 2024 2025 2016年 総合 -0.1% 2017年 総合 +0.5% 2018年 総合 +1.0% 2019年 総合 +0.5% 2020年 総合 0.0% 2021年 総合 -0.2% 2022年 総合 +2.5% 2023年 総合 +3.2% 2024年 総合 +2.7% 2025年 総合 +3.2% 2016年 コア -0.3% 2017年 コア +0.5% 2018年 コア +0.9% 2019年 コア +0.6% 2020年 コア -0.2% 2021年 コア -0.2% 2022年 コア +2.3% 2023年 コア +3.1% 2024年 コア +2.5% 2025年 コア +3.1% 2017年 コアコア +0.1% 2018年 コアコア +0.4% 2019年 コアコア +0.6% 2020年 コアコア +0.2% 2021年 コアコア -0.5% 2022年 コアコア +1.1% 2023年 コアコア +4.0% 2024年 コアコア +2.4% 2025年 コアコア +3.0% 2026年9月(単月) 総合 +2.1% 2026年9月(単月) コア +2.1% 2026年9月(単月) コアコア +2.4% 26年9月 (単月) 4.0

出所:総務省統計局「消費者物価指数」(統計局メールニュース・結果の概要)、労働政策研究・研修機構「主要労働統計指標」。2016〜2025年は暦年平均の前年比(公表当時の基準:2015年・2020年基準)。右端の白抜きの記号は2026年9月単月の前年同月比(2025年基準)で、年平均ではありません。コアコア(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)の2016年は当時の主要公表系列にないため表示していません。単位:%。

数値を表で見る
年総合コアコアコア
2016-0.1-0.3―
2017+0.5+0.5+0.1
2018+1.0+0.9+0.4
2019+0.5+0.6+0.6
20200.0-0.2+0.2
2021-0.2-0.2-0.5
2022+2.5+2.3+1.1
2023+3.2+3.1+4.0
2024+2.7+2.5+2.4
2025+3.2+3.1+3.0
2026年9月(単月)+2.1+2.1+2.4

2021年までは前年比がおおむね1%未満で推移し、マイナスの年もありました。2022年以降は3系列とも2%を上回る年が続き、2026年9月もコアが2.1%、コアコアが2.4%の上昇です。物価がほとんど上がらない時代とは、明らかに局面が変わっています。

残る疑問

基調物価が目標に達し、物価は上振れ方向のリスクが大きく、金融環境は緩和的です。この3点だけを見れば、利上げを見送る理由は見えにくくなります。それでも8人が据え置きに賛成しました。

この疑問への答えは、後述する植田総裁の会見に表れています。先に結論を言えば、総裁は会見で、リスクや金融環境の動向を「もう少し見ていく必要がある」と説明しており、日銀は利上げの必要性を否定したわけではなく、今回は速度について判断を見送ったと読むのが自然です。

9月の「言い切り方」対立はどう決着したか

この章では、政策委員の意見がどう変わったかを見ます。公式文書の表現の変化は、後の「9月会合からの変化」で扱います。

会合金利の決定金利への反対物価判断の文言への反対
7月1.0%据え置き高田委員(1.25%への利上げを提案)―
9月1.0%→1.25%浅田委員・佐藤委員(据え置きを主張)高田委員・田村委員(基調物価は既に目標と整合的と主張)
10月1.25%据え置き高田委員(1.5%への利上げを提案)なし

9月の文言への反対は9月会合の公表文、10月は公表文と基本的見解に基づく。

事実:10月の基本的見解は、9月に高田・田村両委員が主張していた「基調物価は既に目標と概ね整合的」という判断を採用しました。植田総裁は、2%到達の判断には9人全員が一致し、展望リポートの内容も全員一致で決めたと説明しています。

筆者の分析:9月時点では少数意見だった物価認識が、10月には全員一致の判断になりました。9月以降の経済・物価データや見通しの変化が判断に影響した可能性はありますが、どの要因が決定的だったのかは、現時点の公表資料だけでは特定できません。11月10日公表の「主な意見」で、各委員がどのような根拠を挙げたかを確認したいところです。

少なくとも今回の会合の公表内容からは、物価認識の違いよりも、利上げの時期や速度を巡る意見の違いが前面に出たといえます。高田委員の10月の反対理由は、公表文によると、基調物価が目標に達した中で、機動的な対応が可能となる中立金利に近づけるペースを速める新たな局面に入った、というものでした。物価の見方は多数派と同じで、そこから導く結論(速度)が違う形です。一方、9月に利上げへ反対した浅田・佐藤両委員は、今回は据え置きに賛成しました。

ETF売却ペース2.6倍の意味

金利の陰に隠れがちですが、日銀のバランスシートに関わる決定も行われました。

ETF売却ペースの見直し

年間売却額(簿価) 現行 年間売却額(簿価) 現行 3,300億円程度 3,300億円程度 見直し後 年間売却額(簿価) 見直し後 8,600億円程度 8,600億円程度 売却完了までの年数(日銀の推計) 現行 売却完了までの年数(日銀の推計) 現行 112年程度 112年程度 見直し後 売却完了までの年数(日銀の推計) 見直し後 43年程度 43年程度

出所:日本銀行「ETFの売却ペースの見直しに関する決定(2026年10月)」。売却完了までの年数は、2026年9月末の保有ETF残高(簿価)を年間売却額で割った日銀の推計値。

項目現行見直し後
年間売却額(簿価)3,300億円程度8,600億円程度
年間売却額(時価換算)―2兆4,600億円程度
市場売買代金に占める割合0.05%程度0.1%程度
売却完了までの年数約112年約43年
実施時期2026年1月〜2027年1月〜

時価換算は2026年1〜9月の東証プライム市場の売買代金と、売却したETFの時価簿価比率を用いた日銀の計算。

日銀は2025年9月の会合で、かつての「金融機関から買入れた株式」の売却と同程度の規模(売買代金比0.05%程度)として年3,300億円を決め、2026年1月から売却を進めてきました。今回、売却が市場に大きな影響を与えずに進んだこと、株式市場全体の売買代金が拡大したことを理由に、比率を0.1%程度へ倍増させました。市場の状況に応じて売却額の一時的な調整や停止ができる点は従来どおりです。会見で植田総裁は、市場への影響は限定的と判断したと述べています。

筆者の計算:日銀が示した売却完了までの年数は、9月末時点の保有残高(簿価)を年間売却額で割ったものです。そこから逆算すると、保有ETFの簿価残高はおよそ37兆円程度(8,600億円×約43年、3,300億円×約112年のいずれでもほぼ同じ)となります。時価簿価比率は2兆4,600億円÷8,600億円で約2.9倍です。いずれも公表値からの概算です。

筆者の分析:売却額を売買代金に対する比率で決めているため、相場が細れば実質的な売却圧力は相対的に大きくなります。停止・調整という安全弁を残したのはそのためと考えられます。43年という期間は依然長く、今回の決定は出口の完了ではなく、出口の速度を一段上げたものと位置づけるのが妥当です。

展望レポートから読む日本経済

景気:9月からの変化は小さい

景気の総括判断は「一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している」で、9月と同じです。輸出はAI関連需要を背景に緩やかに増加し、企業収益は高水準、労働需給は引き締まった状態が続いています。9月から表現が変わった点は、後述の比較表にまとめました。

先行きは、2026年度はエネルギー・原材料高が家計の実質所得や企業収益を下押しする一方、AI関連需要や政府の負担緩和策が下支えし、伸び率を縮めつつも成長を続けるとしています。個人消費は2026年度は「横ばい圏内」で、増加基調に戻るのは2027年度以降の想定です。

景気は緩やかな回復が続く一方、個人消費は2026年度に横ばい圏内とされており、利上げを慎重にさせる材料が家計側に残っている点は押さえておきたいところです(筆者の分析)。

物価と賃金:見通しの数字はほぼ不変

前回の展望レポートは7月です。以下は政策委員見通しの中央値です。

対前年度比(%)2026年度2027年度2028年度
実質GDP0.7(7月0.6)0.7(7月0.8)0.8(7月0.8)
コアCPI(除く生鮮)2.5(7月2.5)2.6(7月2.4)2.0(7月2.0)
コアコアCPI(除く生鮮・エネルギー)2.4(7月2.5)2.7(7月2.6)2.3(7月2.2)

出所:日本銀行「経済・物価情勢の展望(2026年10月)」。飲食料品消費税率の引き下げの影響は織り込まれていない。

大勢見通しの幅では、2027年度のコアCPIが7月の+2.2〜+2.5%から+2.4〜+2.7%へ、幅全体が上に移りました。日銀は、夏場以降の原油価格上昇の影響などで2027年度が幾分上振れたと説明しています。原油(ドバイ)の前提は、1バレル105ドル程度を出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル程度へ下がる想定です。

物価の押し上げ要因として、日銀は原油高、AI関連需要による半導体価格などの上昇、これまでの円安を挙げています。いずれも一時的・外的な要因です。一方、基調を決める要因として、賃金上昇の販売価格への転嫁と、予想物価上昇率が2%程度で落ち着いていることを挙げています。足もとのコアCPIは「2%程度」とされていますが、これは燃料油補助金などのエネルギー負担緩和策で抑えられた数字です。

筆者の分析:数字で注目したいのは、コアコアCPIが3年度すべてで2%を上回っている点です。原油高の影響が薄れる2028年度でも、コアは2.0%に戻る一方、エネルギーを除いた指標は2.3%と7月より0.1pt高くなっています。エネルギー以外で2%超えが続く見通しは、日銀が上振れリスクを強調する理由の一つと読めます。

また日銀は、原油の国際市況が下がっても、代替調達に伴う輸送コストの増加などから、日本企業が直面する調達価格は国際市況ほどには下がらないとしています。原油前提どおりに下落しても、物価への押し上げがすぐには剥がれないという見立てです。

消費税の扱い:今回の見通しには、国会で審議中の飲食料品消費税率の臨時的な引き下げは織り込まれていません。日銀の機械的な試算では、税率変更が対象品目にそのまま適用された場合、2027年度のコアCPIを−1.3pt程度、コアコアを−1.4pt程度押し下げます。成立すれば2027年度の数字は見かけ上大きく下がりますが、税率変更による物価の動きは、日銀が重視する基調的な物価上昇率とは別物です。

リスク:9月から加わった点

中東情勢、AI関連需要、為替相場という3つのリスクと、基調物価が2%を超えて上振れるリスクは、9月から引き続き明記されています(詳細は前回記事を参照)。10月の基本的見解で新しく目立つのは次の3点です。

  • 夏場以降、米欧を含む多くの中央銀行が利上げ方向へ政策を転換
  • 地政学リスクや天候要因から、穀物価格が上昇傾向
  • 原油供給への懸念がくすぶり、原油備蓄量の減少もみられる

筆者の分析:海外中銀の利上げ転換は、日本が金利を据え置くなかで進めば、ほかの条件が同じなら内外金利差が広がり、円安圧力を強める可能性があります。同時に、海外経済や国際金融市場の動向を通じて日本経済にも影響します。ただし、為替相場は金利差だけで決まるものではなく、今回の日銀資料も海外中銀の利上げと円相場の関係を直接説明しているわけではありません。

植田総裁会見:据え置きの理由

※この章は会見報道(ロイター、共同通信、ブルームバーグ、時事通信など)に基づきます。日銀の公式会見記録(11月2日掲載予定)の公表後に照合します。

冒頭の疑問、「2%整合なのになぜ据え置いたか」について、会見報道からは2つの理由が読み取れます。

理由1:リスクが急に高まったわけではない

総裁は、経済・物価を巡るリスクや金融環境の動向などをもう少し見ていく必要があると判断したと説明しました。上振れリスクについては、依然として高いが、1カ月前と比べて大幅に高まったわけではないとの認識を示しています。

理由2:過去の利上げの効果がまだ出きっていない可能性

ロイター英文によると、総裁は金融環境を中立に近づけたいとしつつ、現在見えている金融環境が過去の利上げの累積効果を十分に反映していない可能性があり、慎重に見る必要があると述べました(他社では未確認)。

2%到達の位置づけ

総裁は、2%の持続的・安定的な実現にはまだ到達しておらず、定着が重要で、達成宣言を出すものではないという立場です。ただし、定着を待つという意味ではなく、基調物価が2%に定着するよう適切に政策を調整するとも述べています。政府との共同声明の見直しについてはコメントを控えました。

次の利上げ

次回会合を含め、毎回の会合で見通しの実現の確度とリスクを点検して判断するとしました。ロイター英文によると、ペースは今後のデータ次第で、毎回何カ月空けるかを事前に決めることはできないとも述べています。

物価圧力と賃金(いずれもロイター英文のみ)

中東情勢による資源高が企業間価格を押し上げてきたが、9月・10月のデータでは消費者物価にも上昇圧力が広がっているとの認識が報じられました。また、基調物価の2%定着には、物価が2%程度で動く前提で労使交渉が行われる必要があり、来年の賃金交渉への影響を見ていくとの趣旨の発言も伝えられています。

筆者の分析:公式文書は利上げの必要性を、会見は利上げの速度をそれぞれ説明していると読めます。「上げる方向は変わらないが、今回すぐには急がない」というペース配分の判断であり、高田委員の反対はこの「急がない」部分への異論と位置づけられます。

なお、ロイター英文のリードは約14年の闘いで物価目標に勝利を宣言したと表現していますが、これは報道機関の要約です。総裁本人は達成宣言ではないと述べています。

9月会合からの変化

ここでは、日銀の公式文書の表現がどう変わったかを見ます。

項目9月会合の別紙10月会合の基本的見解
基調物価2026年度後半から2027年度にかけて目標と概ね整合的な水準になる見込み現在、概ね整合的な水準にある
政策運営の前提基調物価が「2%に近づいている」なか「概ね整合的な水準となる」なか
予想物価上昇率引き続き上昇2%程度
業況・個人消費企業収益は高水準、個人消費は家計マインドに弱さもみられるが底堅い業況感は「一段と良好」、個人消費は物価上昇などの影響を受けつつも底堅い

筆者の分析:9月は政策の局面が変わりつつあるという予告、10月はそれを展望レポートで公式に確定させた会合です。9月会見で総裁は、物価が2%を超えて上振れするリスクを理由に「局面が変化した」と説明していました。10月はその判断に、文書上の根拠が与えられたことになります。

予想物価上昇率の表現が「引き続き上昇」から「2%程度」に変わった点も見逃せません。上昇途中という表現から、目標の水準にあるという表現への変化であり、基調物価の判断変更と整合的です。

利上げの間隔について、日銀はペースを決めていません。総裁は、毎回何カ月空けるかを事前に決めることはできないとしています。市場関係者の中には、3カ月に1回の利上げのシグナルと受け止める見方もありますが、これは日銀の方針ではなく市場関係者の評価です。

今後の金融政策をどう見るか

12月会合(12月17・18日)までに確認したい材料

  • 全国CPI(10月分・11月分)、東京都区部CPI(11月分)
  • 企業物価指数(10月分は11月12日公表予定)、輸入物価
  • 日銀短観12月調査:企業の物価見通し、業況判断
  • 春闘に向けた労使の方針(2%前提の賃上げ要求か)
  • 原油価格と円相場
  • 11月10日公表の「主な意見」での各委員のペース観
  • 令和9年度予算案の編成と、飲食料品消費税率引き下げの関連法案の行方

シナリオ(仮説)

シナリオ内容前提
A:12月に1.5%へ9月から3カ月で再利上げ消費者段階への価格転嫁が広がり、金融市場が安定
B:1月以降に後ずれ間隔を広げる国内消費や賃金の伸びの鈍化、海外経済の減速、資産価格の調整などで下振れリスクが目立つ
C:ペース加速連続利上げや大幅利上げ予想物価上昇率が2%を明確に超えて上振れ

今回の資料と会見報道からは、AとBのどちらにも決め打ちできません。総裁は毎回判断するとし、間隔を事前に決めないと述べています。Cについては、9月会見で大幅・連続利上げは物価が目標を大きく上回るリスクが高い場合などに必要になるとの認識が示されており、「1カ月前から大きく高まってはいない」という今回の評価とは距離があります。

中立金利の推計レンジは1〜2.5%とする報道と、1.1〜2.5%程度とする報道があり、表記が一致していません。いずれにせよ1.25%はレンジの下限付近にあり、追加利上げの余地は残っています。

筆者の見方:利上げのペースは臨機応変になる

筆者は、今後の利上げのペースは決まった間隔ではなく、局面に応じて臨機応変になると考えています。

理由の一つは、長く続いた低インフレ環境から、賃金と物価がともに上昇する環境へ移りつつあることです。仮に中東情勢が落ち着いて原油高の影響が薄れても、賃金と物価が互いに参照しながら上がるという今の仕組みは残ります。外部要因が和らいだからといって、以前の低物価局面に戻るとは限りません。

もう一つは、家計の購買力です。賃金が上がっても、物価や税・社会保険料の負担を差し引くと、家計の購買力が十分に回復していないのではないか、という問題意識を筆者は持っています。

名目賃金と実質賃金の前年比(毎月勤労統計)

名目賃金(現金給与総額)実質賃金
-4 -2 0 2 4 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 1991年 名目賃金 +4.4% 1992年 名目賃金 +2.0% 1993年 名目賃金 +0.3% 1994年 名目賃金 +1.5% 1995年 名目賃金 +1.1% 1996年 名目賃金 +1.1% 1997年 名目賃金 +1.6% 1998年 名目賃金 -1.3% 1999年 名目賃金 -1.5% 2000年 名目賃金 +0.1% 2001年 名目賃金 -1.6% 2002年 名目賃金 -2.9% 2003年 名目賃金 -0.7% 2004年 名目賃金 -0.5% 2005年 名目賃金 +0.8% 2006年 名目賃金 +0.2% 2007年 名目賃金 -0.9% 2008年 名目賃金 -0.3% 2009年 名目賃金 -3.8% 2010年 名目賃金 +0.6% 2011年 名目賃金 -0.3% 2012年 名目賃金 -0.8% 2013年 名目賃金 -0.2% 2014年 名目賃金 +0.5% 2015年 名目賃金 +0.1% 2016年 名目賃金 +0.6% 2017年 名目賃金 +0.4% 2018年 名目賃金 +1.4% 2019年 名目賃金 -0.4% 2020年 名目賃金 -1.2% 2021年 名目賃金 +0.3% 2022年 名目賃金 +2.0% 2023年 名目賃金 +1.2% 2024年 名目賃金 +2.8% 2025年 名目賃金 +2.3% 1991年 実質賃金 +1.1% 1992年 実質賃金 +0.4% 1993年 実質賃金 -0.9% 1994年 実質賃金 +0.9% 1995年 実質賃金 +1.4% 1996年 実質賃金 +1.1% 1997年 実質賃金 0.0% 1998年 実質賃金 -1.9% 1999年 実質賃金 -1.1% 2000年 実質賃金 +0.9% 2001年 実質賃金 -0.6% 2002年 実質賃金 -1.9% 2003年 実質賃金 -0.5% 2004年 実質賃金 -0.5% 2005年 実質賃金 +1.2% 2006年 実質賃金 -0.1% 2007年 実質賃金 -1.1% 2008年 実質賃金 -1.9% 2009年 実質賃金 -2.3% 2010年 実質賃金 +1.4% 2011年 実質賃金 -0.1% 2012年 実質賃金 -0.8% 2013年 実質賃金 -0.7% 2014年 実質賃金 -2.8% 2015年 実質賃金 -0.8% 2016年 実質賃金 +0.8% 2017年 実質賃金 -0.2% 2018年 実質賃金 +0.2% 2019年 実質賃金 -1.0% 2020年 実質賃金 -1.2% 2021年 実質賃金 +0.6% 2022年 実質賃金 -1.0% 2023年 実質賃金 -2.5% 2024年 実質賃金 -0.3% 2025年 実質賃金 -1.3% 2022〜25年:実質は4年連続マイナス

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」(令和7年分結果確報の参考資料)。調査産業計、事業所規模5人以上、就業形態計、現金給与総額の暦年平均の前年比(%)。実質賃金は名目賃金指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って算出しており、上のCPIグラフの「総合」とは物価の定義が異なります。2004〜2011年は時系列比較のための推計値。2024年の前年比は労働者数推計の更新に伴い参考値との比較で算出されており、指数から計算した値とは一致しません。2014年は消費税率引き上げの影響を含みます。

数値を表で見る
年名目賃金実質賃金
1991+4.4+1.1
1992+2.0+0.4
1993+0.3-0.9
1994+1.5+0.9
1995+1.1+1.4
1996+1.1+1.1
1997+1.60.0
1998-1.3-1.9
1999-1.5-1.1
2000+0.1+0.9
2001-1.6-0.6
2002-2.9-1.9
2003-0.7-0.5
2004-0.5-0.5
2005+0.8+1.2
2006+0.2-0.1
2007-0.9-1.1
2008-0.3-1.9
2009-3.8-2.3
2010+0.6+1.4
2011-0.3-0.1
2012-0.8-0.8
2013-0.2-0.7
2014+0.5-2.8
2015+0.1-0.8
2016+0.6+0.8
2017+0.4-0.2
2018+1.4+0.2
2019-0.4-1.0
2020-1.2-1.2
2021+0.3+0.6
2022+2.0-1.0
2023+1.2-2.5
2024+2.8-0.3
2025+2.3-1.3

厚生労働省の毎月勤労統計では、名目賃金は2022年以降2〜3%前後と近年では高い伸びが続く一方、物価を差し引いた実質賃金は2022〜2025年の4年連続でマイナスでした。実質賃金は税や社会保険料を差し引いた可処分所得そのものではありませんが、賃金の伸びが物価に追いついていないことは統計からも確認できます。

展望レポートが2026年度の個人消費を横ばい圏内と見ていることも、この点と重なります。物価の上振れを抑える必要と、家計の回復を確かめる必要が同時にあるため、日銀は一定のペースを機械的に続けるのではなく、データを見ながら速めたり緩めたりすることになると考えます。

財政との関係:消費税減税と国債の買い手

もう一つ併せて見ていきたいのが、財政との関係です。

確認できる事実

  • 令和9年度の政府予算案はまだ固まっていません。
  • 政府は、食料品の消費税率を2027年4月から2年間1%に引き下げる方針です。関連法案は国会で審議中で、日銀の今回の見通しにも織り込まれていません。
  • 高市首相は、減税の財源を特例公債に頼らず確保すると説明してきました。10月19日の参院予算委員会では「国債の発行を否定するものではない」と答弁しましたが、同日夜にXで、予算編成全体としての趣旨で、特例公債に頼らない方針に変わりはないと説明しています。つまり、予算全体での国債発行の可能性と、減税の財源として特例公債を発行する方針は、区別して見る必要があります。
  • 日銀は2026年6月の会合で、2027年3月まで国債買入れを四半期ごとに2,000億円程度減らし、2027年4月以降は月2兆円程度の買入れを続ける計画を決めています。長期金利が急上昇した場合には、機動的に買入れを増やす余地も残しています。
  • 日銀の国債買入れは市場を通じたもので、政府が新たに発行する国債を直接引き受けるものではありません。

日銀の長期国債買入れ予定額(月間)

0 1 2 3 4 25/4-6 月4.1兆円程度 4.1 25/4-6 7-9 月3.7兆円程度 3.7 7-9 10-12 月3.3兆円程度 3.3 10-12 26/1-3 月2.9兆円程度 2.9 26/1-3 4-6 月2.7兆円程度 2.7 4-6 7-9 月2.5兆円程度 2.5 7-9 10-12 月2.3兆円程度 2.3 10-12 27/1-3 月2.1兆円程度 2.1 27/1-3 27/4〜 月2.0兆円程度 2.0 27/4〜 兆円/月。金色=現在の四半期、灰色=2027年4月以降の計画

出所:日本銀行「当面の金融政策運営について」(2025年6月17日)別添、「長期国債の買入れ計画」(2026年6月金融政策決定会合)。横軸は四半期(25/4-6=2025年4〜6月)。今回の四半期予定(2026年10〜12月)の月間オファー金額の合計2兆3,000億円も、この計画と一致しています。

筆者の問題意識(今後の観察テーマ)

消費税減税の開始予定と、日銀の国債買入れ減額が止まる時期は、どちらも2027年4月です。今後、筆者は次の点に注目したいと考えています。

  • 予算全体で国債発行額が増えた場合、銀行、生命保険会社、個人、海外投資家などがどこまで吸収するのか
  • 日銀の買入れが月2兆円程度で横ばいになるなかで、国債の需給にどのような影響が出るのか
  • 長期金利が上昇した場合、日銀が買入れの増額に動く場面はあるのか
  • それが金融政策の正常化や利上げの判断にどう影響するのか

ただし、国債発行が増えると決まっているわけでも、日銀が買入れを増やすと決まっているわけでもありません。ここで挙げたのは、利上げのペースとあわせて見ていきたい論点です。

現時点で判断できないこと

  • 飲食料品消費税率引き下げの関連法案の成否と、令和9年度予算での財源の扱い
  • 中立金利の水準(推計に幅があり、日銀も特定していない)
  • 他の政策委員がペースについてどう考えているか

まとめ

9月に少数意見だった「基調物価は既に目標の水準にある」という判断が、10月には全員一致の公式判断になりました。物価認識がそろった一方で、利上げの時期と速度を巡る意見の違いは残っています。金利は据え置かれましたが、物価判断とETFという2つの面で正常化は前に進んだ会合です。次の焦点は、12月の判断と、年末に向けた予算編成の中で財政と金融政策がどう交わるかです。

📚 主な出典

会見内容は報道ベースです。日銀の公式会見記録(2026年11月2日掲載予定)の公表後に照合し、必要に応じて追記・訂正します。

✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年

ファンダメンタルを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。たまにチャート分析もします。ナンピンは得意です。
X(旧Twitter):@pablo29god

⚠️ 免責事項:本記事は特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。市場価格は常に変動しており、正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。執筆者は金融商品取引業者ではなく、投資助言業の登録を受けていません。投資判断は自己責任でお願いします。FX・先物・CFD取引はレバレッジにより元本を超える損失が生じる可能性があります。記事の内容は2026年10月30日時点の情報に基づいています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました