- 政策金利:1.00%程度 → 1.25%程度(賛成7・反対2)、適用開始は翌営業日の9月24日
- 反対は浅田委員・佐藤委員(ハト派)。高田委員・田村委員は利上げに賛成も、別紙の物価判断文言には反対
- 次回10月29-30日会合は展望レポートを伴う回で、大勢見通しが改訂される
①今回の決定内容——数字で見る
日本銀行は9月17・18日の政策委員会・金融政策決定会合において、次回会合までの金融市場調節方針を決定した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 政策金利(コールO/N) | 1.00%程度 → 1.25%程度(引き上げ) |
| 採決 | 賛成7・反対2 |
| 補完当座預金制度の適用利率 | 1.25% |
| 基準貸付利率 | 1.5%(手形割引の取り扱いは現在停止中) |
| 気候変動対応オペ | 貸付金利を変動金利化、貸付総額に上限設定(全員一致) |
| 反対 | 浅田委員・佐藤委員 |
新たな金融市場調節方針、補完当座預金制度の適用利率・基準貸付利率は、いずれも翌営業日(9月24日)から適用。
浅田委員は、足もとの消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回るなか、経済の状況も必ずしも強いとはいえない点を踏まえると、金融市場調節方針を据え置くことが望ましいとして反対。佐藤委員は、経済・物価情勢が現時点ではこれまでと比べて大きく加速している状態にあるわけではないと考えられるもとで、このタイミングでの利上げは適切ではないとして反対した。
なお7月会合では、高田委員が単独で1.25%への利上げを提案し反対多数で否決されていた。今回はその高田委員も含め、賛成多数で1.25%への引き上げが決定した形になる。
②なぜ利上げに踏み切ったのか——現状評価
公表文・別紙に記された「わが国の経済・物価の現状」には、今回の利上げ判断の背景が記されている。
| 項目 | 現状 |
|---|---|
| 景気全体 | 中東情勢の影響で一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復 |
| 海外経済 | 一部に弱めの動きもみられるが、総じて緩やかに成長 |
| 企業収益 | グローバルなAI関連需要の増加を背景に高水準で推移 |
| 個人消費 | 家計マインドに弱さもみられるが、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移 |
| 国内企業物価 | 前年比で高い伸びが継続 |
| 予想物価上昇率 | 引き続き上昇 |
企業間取引における価格上昇圧力が消費者段階にも波及し始めているほか、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きも続いており、公表文は「消費者物価の基調的な上昇率は2%に近づいている」との判断を強調しており、これが今回の利上げの背景にあるとみられる。
③経済・物価の見通し(今回は展望レポートなし)
今回9月会合は、大勢見通し(実質GDP・CPIの数値見通し)を伴う展望レポートの回ではないため、別紙「経済・物価の現状と見通し」の定性的な記述が中心となる。
先行きについては、中東情勢の影響を受けた春先以降の原油価格上昇が下押し要因となるものの、グローバルなAI関連需要の増加に加え、政府による各種施策や緩和的な金融環境等が経済を下支えすると考えられるため、伸び率を縮小しつつも緩やかな成長を続けるとみられる。その後は原油高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まっていくことから、成長率を緩やかに高めていくと予想されている。
物価面では、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、これまでの原油価格上昇がエネルギーや財を中心に価格を押し上げるほか、グローバルなAI関連需要の増加に伴う半導体価格等の上昇や最近の為替円安が耐久財等の価格上昇につながることから、別紙は「2026年度後半以降、2%をはっきりと上回る水準まで伸び率を高めていく」と予想している。その後は原油高の影響が減衰していくもとで、2%程度に向けてプラス幅を縮小していくと考えられる。この間、人手不足感の強い状況が続くなかで賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持され、消費者物価の基調的な上昇率は徐々に高まっていき、2026年度後半から2027年度にかけて「物価安定の目標」と概ね整合的な水準となり、その後も同程度で推移すると見込まれている。
ここが今回のポイントだ。高田委員・田村委員は、政策金利そのものの引き上げ(1.25%への利上げ)には賛成しつつ、「目標に近づいている途中」という別紙の表現には反対しており、両委員は「物価は既に目標水準に到達している」という、より踏み込んだ物価判断を持っていることが読み取れる。金利水準ではなく、物価の”言い切り方”を巡る綱引きが生じている格好だ。
④リスク要因——3つの柱
| 順位 | 要因 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 中東情勢 | 金融・為替市場やわが国の経済・物価に及ぼす影響をとくに注視する必要がある |
| ② | グローバルAI関連需要 | 動向次第でわが国の経済・物価への影響が変わりうる |
| ③ | 為替相場の変動 | 今後の変動が経済・物価に及ぼす影響に留意が必要 |
基調的な物価上昇率については、企業の賃金・価格設定行動の積極化や中長期的な予想物価上昇率の上昇などを踏まえると、2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがあると評価されている。
⑤金融政策運営の方針——フォワードガイダンス
「基調的な物価上昇率が2%に近づいているなか、現在の金融環境が緩和的であることを踏まえると、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。調整のタイミングやペースについては、中東情勢やAI関連需要の拡大、為替相場の変動の影響を含め、経済・物価の中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検しながら、検討していく方針である」
文言そのものは7月時点とほぼ同一で、「利上げの方向性は継続」「タイミングは情勢次第」という骨格は変わらない。今回はその方針に沿って、実際に一歩踏み出した格好だ。特に、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクが顕在化し、それが経済に悪影響を及ぼすことがないよう、2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になる、との文言が改めて強調された。
⑥7月会合との比較——反対の構図が再び変化
| 項目 | 7月会合 | 9月会合 |
|---|---|---|
| 政策金利 | 1.0%据え置き | 1.0%→1.25%(利上げ) |
| 反対者 | 高田委員 | 浅田委員・佐藤委員 |
| 反対の方向性 | タカ派 1.25%への利上げを提案 | ハト派 利上げに反対、様子見を主張 |
| 高田委員の立場 | 単独で利上げを提案・否決 | 賛成 利上げに賛成/別紙の物価判断文言には異論 |
7月は「もっと早く上げるべきだ」という単独のタカ派異論だったのに対し、9月は「まだ上げるべきではない」という2名のハト派異論に変わった。多数派は利上げを選択しており、ボード内の重心が7月時点よりも引き締め方向に寄ったとも読めるが、実際に利上げを実行する局面に入ったことでハト派の慎重論が可視化されただけ、という見方もできる。
⑦次回会合はいつか
| 会合 | 日程 |
|---|---|
| 次回会合(展望レポートあり) | 10月29日(木)・30日(金) |
| その次(展望レポートなし) | 12月17日(木)・18日(金) |
| 今回会合の議事要旨公表 | 11月5日(木)予定 |
次回10月29-30日会合は展望レポートを伴う回で、実質GDP・CPIの大勢見通しが改訂される。今回の利上げを受け、次の一手のタイミングを占ううえで最初の材料になりそうだ。
今回一番面白いのは、高田委員が「利上げそのものには賛成しつつ、別紙の物価判断の表現には反対」という、これまでにないタイプの反対をしたことだ。政策金利の水準そのものより、”日銀がどこまで強気に物価を語るか”という表現レベルの綱引きに争点が移っている印象を受ける。
7月→9月で反対の向きが完全に逆転した(タカ派1名→ハト派2名)のも見どころ。1.25%まで実際に上げたことで、ボード内の警戒感のバランスが変わった可能性がある。植田総裁の記者会見の内容については、別途整理して追記したい。
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