- 空売りは理論上、株価が上昇し続ける限り損失が無限大に膨らみうる、信用買いとは異なる特有のリスクがあります
- 空売り特有のコスト(逆日歩・貸株料・配当落調整金)や、価格規制などのルールがあります
- すべての銘柄で空売りができるわけではありません
- 本記事は情報提供が目的であり、特定の取引を推奨・勧誘するものではありません
- 空売りができる銘柄は限られる——制度信用取引では2本目で解説した「貸借銘柄」、一般信用取引では証券会社が個別に指定した銘柄のみ
- 信用買いは株価が0円まで下落しても損失は建玉金額が上限だが(委託保証金を超える損失・不足金がありうる点は3本目の追証で解説したとおり)、空売りは株価に理論上の上限がないため、損失も理論上際限なく拡大しうる
- 空売り特有のコスト・ルールとして、貸株料、逆日歩、配当落調整金、空売り価格規制(トリガー方式)がある
本シリーズでは、1本目で信用取引の全体像、2本目で制度信用と一般信用の違い、3本目で追証・ロスカットのリスクを解説してきた。最終回となる今回は、1本目でも触れた「売りから入れる」という信用取引特有の機能——空売りの具体的な仕組みを掘り下げる。
空売りの仕組み
証券会社から株式を借りて先に売り、株価が下落したタイミングで買い戻して証券会社に株式を返却する取引。買った株を後で売る現物取引・信用買いとは、売買の順序が逆になる。
手元に株式を持っていなくても、証券会社から株式を借りることで「売り」の注文を出せる。
空売りをした時点の株価より下落すれば、含み益が発生する。逆に上昇すれば含み損になる。
下落したタイミングで市場から株式を買い戻す。この買い戻しを「買い返済」と呼ぶ。
買い戻した株式を証券会社に返却して取引が完了する。「売った価格」と「買い戻した価格」の差額が利益(または損失)になる。
空売りができる銘柄・できない銘柄
制度信用取引では、買い建てのみ可能な「制度信用銘柄」と、買い建て・売り建て(空売り)の両方ができる「貸借銘柄」があり、空売りができるのは貸借銘柄に限られる。一般信用取引では、売りの対象銘柄・在庫は証券会社が個別に決めており、証券会社によって取り扱い銘柄が異なる。すべての銘柄で空売りができるわけではないという前提を、まず押さえておきたい。
空売り特有のリスクとコスト
権利付き最終日をまたいで信用建玉を保有すると、買い建玉は配当相当額(配当落調整金)を受け取り、売り建玉(空売り)は配当相当額を支払う義務が発生する。この金額は制度信用と一般信用で異なり、制度信用の売り建ては源泉徴収相当分を控除した約84.685%を支払うのに対し、一般信用の売り建ては源泉徴収されず配当の100%を支払う。2本目で触れた優待クロスでは、逆日歩がかからない一般信用(短期)を選んでも、配当落調整金は制度信用より重くなりやすい点に注意したい。
1株あたり配当50円のA社株を、現物で100株保有しているとする。株主優待や配当の権利を維持したまま値下がりリスクをヘッジするため、同じA社株を100株、権利付き最終日に空売り(つなぎ売り)したケースを考える。
①現物100株の保有分
→ 配当金 50円×100株=5,000円を受け取る(源泉徴収20.315%が引かれ、手取りは約3,984円)
②空売り100株の売り建て分(配当落調整金の支払い)
→ 制度信用の場合:5,000円×84.685%=約4,234円を支払う
→ 一般信用の場合:5,000円×100%=5,000円を支払う
①−②の差し引き
→ 制度信用でつなぎ売りした場合:3,984円−4,234円=約250円の不足(後日請求される)
→ 一般信用でつなぎ売りした場合:3,984円−5,000円=約1,016円の不足(後日請求される)
現物の配当受取(源泉徴収後)と空売りの配当落調整金の支払い(制度信用は源泉徴収後相当額、一般信用は源泉徴収前の満額)は完全には相殺されず、差額分の資金がマイナスになる。特に一般信用でつなぎ売りをした場合、不足額が大きくなりやすい。株主優待狙いのつなぎ売りでは、逆日歩の有無だけでなく、この配当落調整金の負担差も含めてコストを見積もっておきたい。
空売りをしている間は、逆日歩の発生の有無にかかわらず、株を借りていることに対する貸株料が日々発生する。さらに制度信用取引で空売りが増え、証券金融会社が貸し出せる株式が不足すると、逆日歩(品貸料)が上乗せで発生し、その費用は売り方(空売りをしている投資家)が負担する。逆日歩の金額は事前に予測しづらく、想定外のコストになりうることは2本目で解説したとおりだ。
空売り価格規制(トリガー方式)
株価が前日比で基準値段から10%以上下落した銘柄(トリガー抵触銘柄)に対して、下落局面では直近の公表価格以下、上昇局面では直近の公表価格未満(同値は可)での大口の新規空売り(51単元以上)を禁止する規制。過度な売り崩しによる株価下落の連鎖を防ぐ目的で設けられている。トリガー抵触後、翌営業日の取引終了時点まで規制が適用される。
この価格規制が適用されるのは51単元以上の大口注文であり、個人投資家が行う50単元以下の小口の空売り注文は規制の対象外となる。ただし、規制を回避する目的で意図的に注文を分割することは認められていない。
空売りを使う場面
- ① 信用取引とは何か(現物取引との違い、レバレッジの仕組み)
- ② 制度信用/一般信用の違い
- ③ 追証・ロスカットなどのリスク
- ④ 空売り(売りから入る)の解説 ← 本記事
空売りは、証券会社から株式を借りて先に売り、値下がりしたところで買い戻すことで利益を狙う取引です。空売りができる銘柄は貸借銘柄など一部に限られ、損失が理論上無限大になりうる点、配当落調整金・貸株料・逆日歩といった特有のコストがある点、そして急落時には価格規制がかかる点が、信用買いにはない注意点です。
本シリーズでは、信用取引の基本(1本目)、制度信用と一般信用の違い(2本目)、追証・ロスカットのリスク(3本目)、そして空売りの仕組み(4本目)を通じて、信用取引の全体像を整理しました。信用取引はレバレッジと空売りという武器を持つ一方、現物取引にはないリスクとコストを伴います。仕組みを正しく理解した上で、無理のない資金管理を心がけていただければと思います。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。市場価格は常に変動しており、正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。執筆者は金融商品取引業者ではなく、投資助言業の登録も受けていません。投資判断はご自身の判断と責任において行ってください。信用取引はレバレッジにより元本を超える損失が生じる可能性があり、特に空売りは損失が理論上無限大になりうる取引です。



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